変形性膝関節症(膝OA)は、膝関節に繰り返しかかる力学的な負荷によって増悪する疾患であり、歩行中の膝関節負荷を評価するために外部膝関節内反モーメント(KAM)が広く利用されてきた。一方、近年では筋骨格モデルによって膝関節の力学的負荷がより詳細に推定できるようになり、膝関節内側コンパートメントにかかる局所的な圧縮力やその圧分布が膝OAの症状を捉えられることが明らかになった。しかし、現在のモデルでは、筋動態特性など患者特有の身体構造学的な変化を考慮しておらず、骨変形の少ない早期OA患者から重度な患者まで、幅広い患者の症状や進行を高精度で予測することができなかった。そこで、本研究では筋動態特性を考慮した患者個別の筋骨格モデルを作成することで、将来のOA進行を予測するより良い指標を探索することを目的とした。 2023年度は、ベースライン計測として、健常高齢者や各重症度の膝OA患者における大腿部および膝関節のMRIを撮像し、筋萎縮などの画像情報を取得した。さらに、三次元動作解析装置や表面筋電図などを用いて歩行中の運動学・運動力学データを取得し、歩行中に膝関節にかかる力学的負荷や膝関節周囲の筋動態特性を計測した。 現在、上記のデータの解析を継続しており、今後、縦断的な変化を調査するためにフォローアップ調査を実施する予定である。本研究によって、より高精度で将来のOA進行を予測できる指標が明らかになった場合、効果的な治療法の確立や膝OA発症・進行予防に向けた重要な情報を得ることができると考える。
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