研究実績の概要 |
我が国において、糖尿病患者数は年々増加しており、大きな社会問題となっている。患者の大半を占める2型糖尿病は、肥満に伴う骨格筋におけるインスリンによる血糖処理能力の低下(インスリン抵抗性)、もしくは、膵β細胞からのインスリン分泌の低下が発症の要因である。その際、日本人ではインスリン分泌能力の悪化が原因で糖尿病を発症する場合が多いため、低下した膵臓機能を向上させる手法の開発が求められている。これまでの数多くの研究結果から、運動は生体内で最大の血糖処理器官である骨格筋の糖取り込み能力を向上させることで、糖尿病の予防・改善に効果的であることが報告されている。しかしながら、運動が膵臓に対しても好ましい影響を及ぼすのかについては必ずしも明らかとなっていない。 膵臓は、骨格筋のように運動によって直接刺激されるわけではない。そこで本年度の研究では、運動により増加する代謝産物が、膵β細胞に及ぼす影響について検討することを目的とした。マウスインスリノーマ細胞株MIN6細胞を、乳酸ナトリウムを含む培養液(0, 5, 10, 15 mM)で3時間培養し、その後グルコース刺激によるインスリン分泌能力を測定した。その結果、すべての細胞におけるインスリン分泌は、低濃度グルコース刺激と比較して、高濃度グルコース刺激において高値を示したが、乳酸濃度による違いは認められなかった。また、インスリン分泌に影響を及ぼすことが報告されているオートファジー系の関連因子発現量および糖輸送体GLUT-2タンパク質発現量は、すべての群間に有意な差は認められなかった。したがって、一過性の乳酸刺激は膵 β細胞に影響を及ぼさない可能性が示唆された。
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