研究課題
本年度の研究は、肥満者の骨格筋に見られる細胞内細胞内脂質(IMCL)の増加とインスリン抵抗性の関連に注目し、運動によるインスリン感受性の改善と運動強度によって引き起こされる脂質動態の変化について検討した。具体的には、中等度のインスリン抵抗性を持つ日本人男性20名を対象に、低強度運動(LIE群:VO2ピーク40%)と高強度運動(HIE群:VO2ピーク70%)の二つの運動強度による骨格筋細胞内脂質とインスリン感受性に対する影響を調査した。結果、LIE群とHIE群の双方でインスリン感受性の改善が観察された。LIE群ではIMCLが有意に減少したのに対し、HIE群ではIMCLが増加した。さらに、運動による骨格筋の脂質プロファイルへの影響を分析した結果、特定のリン脂質が運動強度に応じて変化することが確認された。これらのリン脂質の変化は、細胞膜の機能や細胞内シグナル伝達の調節に寄与する可能性が示唆された。本研究から、運動によって改善されるインスリン感受性と関連する脂質分子種が同定された。運動強度による差異が骨格筋の脂質組成とインスリン感受性に異なる効果をもたらすことが示され、運動療法のカスタマイズに向けた重要な基盤情報を提供するものとなった。さらに、本年度は非肥満日本人男性94名の安静時筋生検サンプルに基づくリピドーム分析も完了した。これにより、健康な筋肉組織における基礎的な脂質組成データが得られ、肥満者との比較分析を行う基盤が構築された。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画は、申請書に記載された目的および方法に従い、予定された研究活動を適切に遂行することができた。具体的には、申請書において提案された「肥満者の骨格筋における細胞内脂質(IMCL)の増加とインスリン抵抗性の関連に焦点を当てた研究」を実施し、インスリン感受性改善に関連する脂質の抽出を行った。さらに、非肥満日本人男性94名から得られた安静時筋生検サンプルを用いたリピドーム分析も計画通りに実施され、肥満者と非肥満者の筋肉組織における脂質組成の違いを比較する貴重なデータが収集された。これらの成果は、申請書に記載された研究の範囲と目標に沿っており、提案された研究計画が計画通り、かつ効果的に進行したことを示している。
今後の研究計画では、申請書に記載された通り、既に抽出された脂質とさらに高脂肪食によっての脂質動態を合わせて解析し、分析を更に進める予定である。具体的には、抽出された脂質分子種と本年度行われたリピドームの結果を合わせて分析を行う。これにより、運動療法の個別化に必要な脂質の動態を理解し、肥満や糖尿病といった代謝疾患の治療において、より効果的な運動プログラムを設計するための基盤を築く。研究の進展は、これらの成果を基に、さらに深い生物学的洞察を提供し、運動と代謝健康との関係を解明することを目指す。
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Journal of Clinical Medicine
巻: 4084. ページ: 1to19
10.3390/jcm12124084