研究実績の概要 |
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy, 以下DMD)は根本的な治療法が確立されていない遺伝性筋疾患であり、40歳前後で死に至る難病である。申請者らはこれまでに、血中のケトン体を効率的に増加させることができる中鎖トリグリセリドを含むケトン食(以下MCT-KD)が、CRISPR/Cas9法を用いて作製したヒト型DMDモデルラットにおける骨格筋の筋力低下を長期間にわたって抑制することを明らかにした。しかし、その一方で、DMDの主な死亡原因である心機能の低下については、MCT-KDの摂取によってさらに低下する傾向にあった。そこで、本研究では、DMDによる骨格筋障害と心筋障害を同時に改善するための新たなケトン食の開発を目指した。仮説として、MCT-KDがDMDラットの心機能を低下させた原因として、血中のω3多価不飽和脂肪酸(以下、ω3-PUFA)に対するω6多価不飽和脂肪酸(以下、ω6-PUFA)の増加を考えた。そのため本年度は、DMDモデルラットの血中のω3-PUFA:ω6-PUFAの濃度比を指標に、MCT-KDのω6-PUFAの一部を、心機能改善効果のあるω3-PUFAへと置換したMCT-KDを作成した(以下、ω3-MCTKD)。DMDモデルラットに、普通食、ω3-普通食、MCT-KD、ω3-MCTKDを摂取させて、9ヶ月齢で骨格筋および心筋の病態を筋力測定・心エコー図検査・線維化領域の定量などにより評価した。その結果、少なくとも骨格筋に関してはω3-PUFAの摂取によって筋力が低下する傾向が観察された。これは、DMDモデルマウスを用いた先行研究において、ω3-PUFAを投与すると、筋組織の炎症が抑制され、骨格筋の病態が改善することは異なる結果である。今後、ω3-PUFA摂取の心機能への影響についても解析を進める。
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