研究課題/領域番号 |
23K16815
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
和田 恵梨 名古屋大学, 環境医学研究所, 特任助教 (90910307)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | Weight-Cycling / 分岐鎖アミノ酸 / 慢性炎症 |
研究実績の概要 |
食事療法は肥満治療の根幹を成すが、長期間にわたる治療は患者負担が大きく、しばしば体重リバウンド(Weight-Cycling: WC)を来す。従来、肥満食事療法は主に炭水化物や脂質に注意を払われていたが、アミノ酸もまた、肥満病態と密接に関わることがわかっている。我々は、一定条件下におけるWCが脂肪組織の慢性炎症を持続的に抑制することを既に見出している。本研究では、分岐鎖アミノ酸(BCAA)に着目して、WCが脂肪組織炎症を制御する分子機序を明らかにすることを目的とした。 現在までに、体重減量中およびWC後のサンプリングを行い、白色脂肪組織及び血中のアミノ酸やアミノ酸代謝酵素を検証した。網羅的に血中の栄養代謝物をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて検証する中で、脂肪組織の炎症・線維化に関与するアミノ酸以外の栄養素も見出すことができた。in vitroの実験系では、BCAAと炎症の関連を調べるため、3T3-L1細胞を用いて、脂肪細胞における細胞内BCAA代謝と炎症の関連を検証した。脂肪細胞以外にもマクロファージや間葉系細胞の変化に着目するため、FACS(fluorescence-activated cell sorting)を用いてソーティングするための準備を整えた。 今後は分岐鎖アミノ酸代謝酵素の遺伝子改変マウスを用いて、BCAA代謝と炎症との関連をin vivoでも解明する。減量中およびWC終了時のマクロファージや線維芽細胞の性質変化についても検証し、炎症微小環境での慢性炎症形成機序の解明を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画していたin vivoおよびin vitroの実験は予定通り進めることができている。初年度には、体重減量中およびWC後のサンプリングを行い、白色脂肪組織及び血中のアミノ酸やアミノ酸代謝酵素を検証した。網羅的に血中の栄養代謝物をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて検証する中で、脂肪組織の炎症・線維化に関与することが予測できるアミノ酸以外の栄養素も見出すことができた。また、RNA-seq解析も実施し、体重リバウンド期間中に起こる脂肪組織の変化に関しても着目して解析を行った。これらの網羅的解析より、BCAA代謝のみならず、他の栄養素が脂肪組織の慢性炎症に関与している可能性も考え、更なる研究を行っている。 in vitroの実験系においては、BCAAと炎症の関連を調べるため、3T3-L1細胞を用いて、脂肪細胞における細胞内BCAA代謝と炎症の関連を検証した。脂肪細胞以外にもマクロファージや間葉系細胞が、様々な栄養状態の変化に応じて形質をどのように変化させていくかを検証するため、FACS(fluorescence-activated cell sorting)を用いてソーティングするための準備を整えた。 また、関連する学会においても研究成果報告を行うことができており、計画した研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
分岐鎖アミノ酸代謝関連酵素の遺伝子改変マウスを現在作製している。2年度目では当マウスへ高脂肪食負荷やWCの介入を行い、表現型の解析を行う。特に脂肪組織に着目して慢性炎症の状況が変化しうるかを解析する。この実験により、分岐鎖アミノ酸代謝の変化による脂肪組織慢性炎症への影響を明らかとする。 また、分岐鎖アミノ酸以外の他の栄養素が白色脂肪組織の慢性炎症に関与している可能性を見出しているため、この解析も進めていく。具体的には、1年度目で条件検討したフローサイトメトリーによる脂肪組織由来のマクロファージおよび線維芽細胞の回収を行う。これらの初代培養した細胞に対し、分岐鎖アミノ酸の培地中の濃度や分岐鎖アミノ酸代謝関連酵素のノックダウンを行い、性質の変化を解析し、in vivoの実験系との整合性やメカニズムの解析に用いる。 さらに、分岐鎖アミノ酸以外の栄養素が脂肪組織慢性炎症に関与している可能性を見出しているため、広く栄養環境の変化による脂肪組織の細胞の性質の変化を同時に検証していく。 また、論文作成も進めており、2年度目中の投稿を予定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
交配が順調に進まず、分岐鎖アミノ酸代謝関連酵素のノックアウトマウスの作製が予定より遅延した。このため、当遺伝子改変マウスの解析を2年度目に回すことになり、次年度使用額が生じた。 2年度目は体重リバウンドが終了したタイミングのみならず、減量期間中の脂肪組織の解析も更に進めていくため、解析関連費用として使用を計画する。特に、栄養素の組織内および血中濃度の変化を調べるため、GC-MS解析や定量キット等を用いて検証していく。 2年度目の論文執筆、投稿関連費用にも充当を計画する。
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