本邦における生活習慣病の増加の要因のひとつとして、食生活の欧米化が挙げられる。欧米化食を模した高脂肪高ショ糖食を野生型マウスに投与すると、通常食を投与した同腹仔のマウスと比較して、糖尿病や脂肪肝などの代謝障害を発症しただけでなく、小腸の長鎖脂肪酸トランスポーターやブドウ糖トランスポーターの遺伝子発現が上昇し、腸管からの栄養吸収が増加していることを明らかにした。そのメカニズムにおいて、先天的に同じ遺伝子情報をもっていたとしても後天的な環境因子でゲノムが修飾され、個体レベルの形質が異なってくる「エピゲノム変化」が関与しているのではないか、さらにはそのエピゲノムを制御することで糖尿病の予防および寛解が可能となるのではないかと考えた。そこで本申請では、欧米化食による小腸のエピゲノム変化を明らかにすべく、小腸上皮細胞を単離した後、CUT&Tag法によりヒストン修飾を調べた。転写の活性化を示すヒストン H3K23 のアセチル化やK9のアセチル化はCd36やFabp1、Slc27a4のような脂肪酸トランスポーターの遺伝子領域で上昇していた一方で、転写抑制を示すHeK27のトリメチル化は低下していた。上記の結果から、食の欧米化により小腸の脂肪酸トランスポーターの遺伝子発現が亢進することで、 小腸から飽和脂肪酸や糖の吸収が増加し、脂肪肝や2型糖尿病などの生活習慣病が発症するメカニズムにおいて、小腸上皮細胞のエピゲノム変化が寄与する可能性が示唆された。
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