研究課題/領域番号 |
23K16923
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
宮本 友樹 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 助教 (80963529)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ヒューマンエージェントインタラクション / ヒューマンロボットインタラクション / 対話システム / 対話におけるリスクテイク |
研究実績の概要 |
2023年度は以下の研究を実施した. (1)攻撃的な冗談を発話する対話エージェントと丁寧な発話戦略を発話する対話エージェントを心理実験によって主観評価し,その受容性を明らかにした.さらに「機械に対して帰属しづらい言動」を雑談におけるリスク要因として新たに捉え,そのリスクを軽減するための手法として,ユーザとの物理的接触を理由付けとして対話エージェントが仮想的に人間と同等の感性を獲得するインタラクションデザインを提案し,心理実験による受容性の効果検証を行った.これらの結果についてHAIシンポジウム2024での発表を行った.いずれの研究成果についても学術論文として投稿準備中である.また,準備期間に収集していた,リスクテイクな発話戦略の一つであるコンプリメント(褒め)の雑談対話における心理評価データを対象に,コンプリメントの構造やユーザ特性の観点からコンプリメントの心理効果を明らかにし,その成果が人工知能学会論文誌に掲載された. (2)リスクテイクな発話戦略の受容性推定モデルを予備的に検討した.具体的には,従来モデルを拡張する形で,対話時間が長くなるほど対話システムの発話候補のリスクを低く見積もるモデルを構築した.これにより,ユーザとの対話継続時間に応じてリスクの見積もり方を適応的に変化させることが可能となる.また,ChatGPTを用いて,リスクテイクな対話例を生成する方法を検討した.プロンプトエンジニアリングにより,特定のシチュエーションの下で相手を冗談でからかうように雑談を進めていく対話例を生成した.さらに,受容性推定の結果に基づいてリスクテイクな発話戦略を選択するGPT-4ベースの雑談対話システムを予備的に開発した. (3)探索的な検討として,リスクテイクな発話戦略を含む対話システムによる言語的配慮戦略の印象について日米比較調査を行い,その結果が学術雑誌(知能と情報)に掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大規模言語モデルの台頭により,対話データの収集など研究の進め方の一部について再検討が必要になったものの,おおむね順調に研究は進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は,当初の研究計画を基に以下を推進していく.ただし,ChatGPT等の大規模言語モデル系のサービスの普及を考慮した柔軟な検討は必須となる. ・2023年度に実施した被験者実験を継続し,リスクテイクな発話戦略を伴う人と対話システムの対話データを引き続き収集する.具体的には,テキスト対話システムやロボットを用いた音声対話システムと人間が特定の話題やシチュエーションにおいて対話を行い,その心理効果を検証する. ・大規模言語モデル系のサービスに対する知識や利用頻度がリスクテイクな発話戦略の受容性に影響するという作業仮説を立て,心理実験によって検証する.また,当初の計画の通り,ユーザのパーソナリティ特性(性格特性)とリスクテイクな発話戦略の受容性の関係について分析する. ・以上の研究から得られるデータや知見を基に,リスクテイクな発話戦略の受容性推定モデルを構築する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では,クラウドソーシングによるオンライン上での対話データや心理実験データを短期間で大量に収集し,そのために人件費・謝金を多く使用する予定であった.しかし,ChatGPT等の大規模言語モデル系サービスの台頭により,ある程度自然なやりとりを対話システムと行うこと自体は比較的容易となり,逆に,人間と対話システムのインタラクションにおける心理的な影響について被験者実験で詳細に分析することの重要性が高まった.そのため,人件費・謝金は,実験室実験における実験協力者への謝金として利用し,結果として当初の予定よりも2023年度の使用額は低くなった. 次年度使用額は,引き続き実施する実験室実験における人件費・謝金として使用する予定である.また,実験室実験によって得られた成果が顕著であったため,現在学術雑誌に論文を複数件投稿準備中であり,そのための英文校正費・投稿料・掲載料等の一部としても使用する予定である.
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