研究課題/領域番号 |
23K16959
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
片上 舜 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (90972084)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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キーワード | ベイズ推定 / モデル選択 / ベイズ統合 / 交換モンテカルロ法 |
研究実績の概要 |
前年度において、私はベイズ計測の基盤を構築し、その適用範囲を広げる一連の研究を進めた。具体的には、ベイズ計測における能動学習手法およびベイズ統合の手法を開発し、またベイズ推論の応用事例として結晶場パラメータの推定、核磁気共鳴(NMR)測定データの解析手法を示し、ベイズ計測の適用範囲を拡充した。これらの手法は、データ駆動型の科学研究における重要な進展を示している。 また、小角散乱(SAS)データの解析や、電子顕微鏡画像の高速な画像修復技術にも注力した。特に画像修復技術は、GPUを用いることで高速な実行を可能とした優れた復元能力を示し、リアルタイムに電子顕微鏡画像の質を改善させることを可能とした。 さらに、ベイズ推論を用いた統計ゆらぎの影響評価を通じて、データ解析の不確実性を定量化し、ベイズ推論、モデル選択およびベイズ統合の結果の信頼性について理論的に言及した。この成果は、日本物理学会の講演にて共有した。 また、ベイズ推論の普及活動として、開発中のベイズ推論オープンソースソフトウェア(OSS)に関する講演をSPring-8、あいちSR、東大の専攻内部で行い、ベイズ推論の基礎から応用に至るまでの広範なレクチャーを提供した。 これらの研究成果は、ベイズ計測及びその応用技術の進化に大きく貢献し、科学的探究の精度を向上させた。次年度以降では、これらの成果を活用・発展させ、ベイズ推論OSSに組み込むことでベイズ計測手法のさらなる普及と進化を目指していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は、ベイズ計測の基盤構築と普及を目的としており、当初の計画以上に進展している。この進展は、以下の主要な要因によりもたらされた。 まず、ベイズ計測における新規な解析手法の提案が大きく寄与している。具体的には、ベイズ統合とベイズ能動学習の導入により、従来のデータ解析手法に比べて、データからの推論性能が向上した。これにより、少数の計測データから、効率的により正確な物理量の推論が可能となった。 次に、ベイズ計測の実応用における具体的な成果が挙げられる。結晶場パラメータの推定、核磁気共鳴(NMR)測定データ、小角散乱(SAS)データの解析手法、そして電子顕微鏡画像の高速画像修復技術の開発は、実際の計測データ解析の応用においてもその有効性が認められ、ベイズ計測技術の適用範囲の拡大に繋がった。特に画像修復技術は、GPUを用いることで高速な実行を可能とした優れた復元能力を示し、リアルタイムに電子顕微鏡画像の質の改善を可能とした。 さらに、ベイズ推論の精度向上にも大きな進展があった。データ計測時の統計ゆらぎがベイズ推論やモデル選択、ベイズ統合にどのような影響を与えるかを理論的に評価することで、これらの影響を予測し、対策を講じることが可能となった。この研究成果は、データ解析の不確実性を低減し、より信頼性の高い推論を実現することを可能にした。 また、ベイズ推論の普及活動として、開発中のベイズ推論OSSに関する講演をSPring-8、あいちSR、東大の専攻内部で行い、ベイズ推論の基礎から応用に至るまでの広範なレクチャーを提供した。 これらの複合的な要因が相まって、本研究課題は当初の計画を上回る速度で進展を遂げており、今後もこの勢いを持続してさらなる研究の深化を図っていく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究成果を受けて、今後の研究推進方策は、ベイズ計測技術のさらなる深化と普及に焦点を当てていく。具体的な推進方策は以下の通りである。 技術の深化と新規応用の探求 : 結晶場パラメータの推定、核磁気共鳴(NMR)測定データ、小角散乱(SAS)データの解析、及び電験画像の高速画像修復技術の開発により得られた知見を基に、これらの技術をさらに発展させる。具体的には、複数の測定手法を組み合わせたハイブリッドなデータ解析モデルを開発し、異なるタイプのデータからより高度な情報を抽出する手法を模索する。これにより、ベイズ計測技術の適用範囲を新たな科学分野や産業へと拡大していく。 オープンソースソフトウェアの開発と普及 : 開発中のベイズ推論オープンソースソフトウェア(OSS)を利用して、ベイズ統合やベイズ能動学習の手法を広く公開し、利用しやすい形で提供する。このソフトウェアを通じて、研究者だけでなく産業界の技術者にもベイズ計測技術を手軽に利用してもらえるような環境を整備する。また、ソフトウェアのユーザーコミュニティを構築し、ユーザーからのフィードバックを積極的に取り入れながら、機能の改善と更新を行う。 国際的な共同研究の推進 : 海外の研究機関や大学との共同研究を進め、ベイズ計測技術の国際的な研究ネットワークを構築する。これにより、多様な研究文化や異なる観点からのアプローチを取り入れることが可能となり、技術の進化に新たな視点を得られると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度においては、ベイズ計測のオープンソースソフトウェア(OSS)の開発に先立って、ベイズ計測技術の基盤を強化し、新規手法の開発および応用範囲の拡充に注力した。また、理論的知見を応用して推定精度を向上させるための研究にも力を入れた。これにより、科学的な探究の精度を格段に向上させることができた。 本年度においては、これらの研究成果をさらに発展させるため、ベイズ計測のOSSの開発を進めることになる。特に、前年度にSPring-8、あいちSR、東大専攻内部で行った講演から得たフィードバックを基に、Windows環境で実行可能なシステムの構築を目指す。このシステム開発には、ソフトウェアの設計、コーディング、テスト、そしてユーザーへの導入支援まで多岐にわたる作業が含まれるため、本来本作業に割り当てる予定であった前年度の予算は、本年度に繰り越して用いる予定である。 これらの予算は、ソフトウェア開発に必要なハードウェア、そして関連する研究会やワークショップの参加費用に充てる予定である。また、ソフトウェアの普及と教育活動を支えるための資材作成と配布にも使用される予定である。これにより、ベイズ計測技術のさらなる普及とその応用範囲の拡大を図り、科学技術の進展に寄与することを目指す。
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