研究課題/領域番号 |
23K17000
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
浅倉 祥文 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 特別研究員 (60943595)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | regeneration |
研究実績の概要 |
高い再生能を持つ両生類をモデル生物とした研究から四肢再生における機能遺伝子群と発生時の形態形成遺伝子群の類似性が示唆され、ヒトの再生医療への応用を目標に形態形成機構を再起動する因子の探索が進められてきた。再生研究においてモデル生物として用いられるアフリカツメガエルは、幼生は高い再生能を持ち、手足を切断した場合に完全な肢が再生する。しかし次第に再生能は低下し、成体ではスパイクと呼ばれる棒状の組織のみが形成される。 所属研究室のこれまでの研究で、ノックアウトした幼生では再生能が失われ、強制発現させた成体では再生能が一部回復する転写因子X1、X2が同定された。単一遺伝子の強制発現で再生能が回復した例はこれまでに報告されておらず、X1、X2の発見は四肢の再生における遺伝子発現制御に迫る新たな知見である。しかしこれらが誘導し形態形成を担う下流因子群は未解明であり、どのような遺伝子群がいつどの細胞で発現して再生能が回復したのか、そして何が完全な再生に足りないのかは未解明であった。そこで本研究では、形態形成の再起動因子X1、X2の作用機序とその限界を明らかにすることを目的とする。 今年度は、再生時に形態形成を回復するX1とX2を発現する再生芽が、どのような細胞種からなるのか解明するためシングルセルRNA-seq解析を行った。X1、X2の発現誘導トランジェニック成体の再生芽を用い、野生型の再生芽と比較解析することで、X1とX2の再生時の機能を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、X1、X2が形態形成機構をどの程度再起動するのかを明らかにし、X1、X2の幼生と成体での再生時の機能の差も明らかにすることを目的に、形態形成因子の発現の定量を予定していた。具体的には、再生時に形態形成を回復するX1とX2を発現する再生芽が、どのような細胞種からなるのか解明するためシングルセル(sc) RNA-seq解析を行い、再生芽の細胞群に含まれるサブグループ、すなわち細胞種のそれぞれを発生中の肢芽のscRNA-seqデータと比較し、どのステージの肢芽のどの細胞種に近いかを特定することを予定していた。 このscRNA-seq解析の結果、発生中の肢芽の細胞は未分化状態にあるため、各細胞種を一意に特徴づけるマーカー遺伝子が必ずしも見つからないという問題が生じた。そのため当初の予定に加え、発生中の未分化の細胞集団に対して、細胞の状態を明らかにする作業を進めている。 一方で、次年度に予定していたクロマチン状態の変化の定量のためのATAC-seq解析をシングルセルレベルで行うためのライブラリ調整を行うことができ、この点においては当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
転写因子X1、X2の再生能への寄与のメカニズムを明らかにするため、クロマチン状態の変化の定量を進める。そこで転写因子X1、X2が作用するエンハンサー配列を特定するため、幼生のWTとKO、成体WTとTGでATAC-seqを行い、再生時に開くノンコーディング領域を調べる。下流因子付近で再生時に開く候補配列に、蛍光遺伝子の配列をつなげたレポーターDNAを作成し、再生芽に導入する。レポーターを発現させる候補配列は再生時にエンハンサー活性をもつ配列である。さらに再生時特異的なエンハンサーと発生時にも共通の領域を峻別するため、肢芽発生中の個体を用いて同様の実験を行い、発生時のエンハンサー活性も明らかにする。以上により再生時に機能するエンハンサー領域と、中でも再生時特異的な領域を明らかにする。 また、未分化細胞を含むscRNA-seq解析において、各細胞種を一意にクラスタリングするための解像度の決定とマーカー遺伝子による各細胞種の決定を同時に行うことは困難であったため、既知の細胞種マーカーを用いて事前に細胞集団を分割して、重複を許して細胞腫を特定することで、発生中の細胞の状態を明らかにする。これにより発生中の肢芽と再生芽の細胞の比較を行い、本研究課題を推進する。
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