研究課題/領域番号 |
23K17058
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
渡邊 美穂 秋田県立大学, 生物資源科学部, 助教 (70867184)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 嫌気微生物 / 代謝 / 培養 / 分解経路 |
研究実績の概要 |
近年、揮発性芳香族炭化水素であるパラキシレンやその関連物質による環境汚染が懸念されており、地下水等に拡散した場合の微生物浄化法が模索されている。パラキシレンは無酸素環境における難分解性物質のひとつであり、嫌気的微生物分解プロセスには不明な点が多い。本研究の主目的の一つは新たな物質分解経路の解明であり、未知の硫酸還元-パラキシレン完全分解機構を明らかにすることである。パラキシレンが芳香環の開環を経て二酸化炭素にまで分解される一連の微生物反応を解明するため、パラキシレンからの中間代謝産物の特定を行った。炭素安定同位体で標識されたパラキシレンを基質として硫酸還元細菌株PP31株に与え、産生する硫化水素から微生物増殖をモニターした。一定期間後に硫酸呼吸の阻害剤を添加して代謝プロセスを停止させ、分解の中間代謝産物を安定同位体比質量分析計で測定した。結果として同位体ラベルされた中間代謝産物としてパラ位にメチル基をもつ物質が確認され、開環およびβ酸化の代謝ステップを推察することが出来た。 また、新規微生物反応を解明するには上記の一連の代謝ステップに関与する遺伝子群を特定することが必須である。そのため、RNA-seq解析を行いPP31株がパラキシレンを分解するときに特有に働く遺伝子群を特定した。PP31株を酢酸、4-メチル安息香酸およびパラキシレンを唯一の基質として添加してそれぞれ培養し、産生する硫化水素から微生物増殖をモニターして一定期間後に各培養系から全RNAを抽出した。全RNAのクオリティチェック後、RNA-seqを行った。各基質の添加系列による遺伝子発現パターンの違いを比較分析するためのデータ解析を現在遂行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNA-seqのデータ解析は遂行中であるが、有機酸である酢酸と、目的物質であるパラキシレンの添加系列との間では発現する遺伝子群に大きな違いがあることがわかっている。さらに、パラキシレンに関連する物質である4-メチル安息香酸においても明確な硫酸還元反応とパラキシレン添加培養系で発現する特有の遺伝子群と同様の遺伝子発現パターンが見られた。このことから、硫酸還元細菌PP31株における新規物質分解経路を明らかにするという本研究の目的に関し、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続きRNA-seqのデータ解析を遂行し、パラ位にアルキル基をもつ芳香族炭化水素種の分解に関与する一連の遺伝子群を特定する。また、硫酸還元細菌PP31株の安息香酸添加系では硫化水素生成が見られなかった。おそらく安息香酸での馴養が不十分であった可能性があるため、安息香酸添加の培養系を作成しRNA抽出を行ってパラキシレン/4-メチル安息香酸分解系との発現遺伝子比較を行うことでより詳細な遺伝子解析を行っていきたいと考えている。遺伝子群特定後は、近縁な石油系炭化水素分解性硫酸還元細菌との比較ゲノム解析等も行っていく予定である。
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