研究課題
ニホンジカによる農業被害額は野生鳥獣で最大であり、被害低減のために多くの対策技術が開発されてきたが、加害個体の発生そのものの抑制を意識した対策手法の開発や既存技術の運用には発展の余地がある。そこで本研究では農作物加害個体の発生メカニズムの解明を試みる。具体的には(1)安定同位体比分析により個体の生涯の食性履歴を時系列的に復元する手法を開発し、生涯における農作物依存度の経時変化を推定するとともに、(2)血縁関係および生息環境といった要因が各個体の農作物依存傾向にもたらす影響を明らかにする。今年度は、(1)を開発するにあたり既往研究から水晶体を分析試料として供することが最適と判断し、対象調査地内で捕獲されたニホンジカ100頭の水晶体試料を入手した。26頭の水晶体試料の安定同位体比分析を試みたところ、下処理方法および水晶体の各層サンプリング方法に改良の余地があることが明らかとなった。続いて、(2)を検討するにあたり、対象地域において血縁関係を明らかにするためのSNPマーカー開発を試みた。対象地域で捕獲された野生シカ157頭(うち、親子確定が16組)のDNAを市販キットにより抽出し、既報文献情報をもとに作成した192SNPマーカーを用いて増幅、配列データを得ることができた。しかしながら得られた配列データを用いて親子解析ソフトで解析を実行したところ、既知以外の親子の組み合わせをほとんど特定することができなかった。
2: おおむね順調に進展している
一部当初計画を変更した部分があるものの(生涯の食性履歴復元に供する試料を大腿骨から水晶体に変更)、概ね当初の計画通り本研究は進行していると判断した。
(1)について、次年度は水晶体分析の下処理方法および各層サンプリング方法を改良し、シカ水晶体を用いて食性履歴の経時変化の復元が可能か検討を進める。(2)について、収集試料(親子確定試料を除く)に親子の組み合わせが存在しなかった可能性があることから、シカの行動特性も踏まえて親子判定から血縁度推定に切り替えて解析を進めることとする。
DNA解析について研究所内の解析支援に採択されたことから、当初計画していたDNA解析の外注費用が発生せず、次年度使用額が生じた。今年度の血縁度解析結果に応じて追加の解析が必要になる場合があるため、その際には本額を充当する予定である。
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