研究課題/領域番号 |
23K17075
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
横山 幸司 東北大学, 環境科学研究科, 助教 (00911158)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 炭素電極材料 / ヨウ化スズペロブスカイト / 前駆体水溶液 |
研究実績の概要 |
本研究では、炭素ベースペロブスカイト太陽電池の高効率化に向けた炭素電極-ペロブスカイト光発電層構造の最適設計を目的としている。2023年度は、研究実施計画に基づき、以下の2点に重点的に取り組んだ。 ①高分散炭素材料インクの性状最適化と安定性付与:カーボンナノチューブ、カーボンブラック、ナノグラファイトの3種類を炭素電極の原料に用い、高分散インクの調製を試みた。水溶液に適する分散剤・増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)が有用であることを見出した。実証実験として、ヨウ化スズペロブスカイト材料の前駆体水溶液にこれらの炭素材料とCMCを混合して基板上に滴下・乾燥させたところ、ペロブスカイト材料と炭素材料がミクロレベルで混合した複合膜が形成された。炭素材料の粒子径の制約からインクジェット吐出への適用はまだできていないものの、炭素電極-ペロブスカイト光発電層が相互に入り組んだ複合構造の実現に大きく前進した。 ②太陽電池セル化に向けたペロブスカイト薄膜のスピンコート形成:研究代表者が開発したヨウ化スズペロブスカイト材料の水溶液中合成法をベースとして、透明導電膜/電子輸送層上にヨウ化スズペロブスカイト材料の前駆体水溶液をスピンコートすることでペロブスカイト薄膜の形成を試みた。前駆体水溶液の濃度やスピンコート条件、アニール処理温度をパラメータとして、前駆体水溶液からの過飽和析出・脱水和による核形成と粒成長過程を最適制御することにより、膜厚約500 nmの均一なペロブスカイト薄膜を形成した。さらに本薄膜の光吸収・発光といった基礎的な光学特性も実測した。本成果は、インクジェットとはサイズスケールが異なる成膜手法ではあるものの、本研究によってペロブスカイト光吸収層の成膜が原理的に可能であることを示すものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画通り、高分散炭素材料インク調製と、そのペロブスカイト前駆体水溶液との複合化に成功した。また、2024年度以降に実施予定である前駆体水溶液からのペロブスカイト薄膜形成の概念実証にも進展が見られ、研究の一部は当初の計画以上に進展している。一方で、インク試料のpHや粒子径などの性状の制約から、インクジェット吐出装置を用いた検証に至っていない。研究計画全体を総合すると、おおむね順調に進捗しているものと判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、以下の2点に重点的に取り組む予定である。 ①太陽電池セルの試作と性能評価:これまでの取り組みにより、透明導電膜/電子輸送層/ペロブスカイト光吸収層までを形成できている。これに正孔輸送層/炭素電極、あるいは単に炭素電極を積層形成できれば太陽電池セルとして完成するので、光照射による光電変換効率・安定性の評価などを進めていく。概念実証の意味合いが強いため、成膜法、電極形成法については、インクジェットのみに限定せずスピンコートも併用していく。 ②インクジェット吐出装置を用いた検証:インクジェット吐出装置については、学内の共用装置のほか、山形大学インクジェット開発センターの装置の使用に向け、調整を行っていく。特に炭素電極インクについてはノズルの目詰まりを最大限抑制することが不可欠なため、実機を用いた検証に先立ち、インク中の炭素材料の分散状態・粒子径の分析、さらに安定性についても詳細な検証を行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
インクジェット吐出評価装置を用いた評価が未実施であることから、R5年度に計上していたインクジェット関連消耗品費および試薬購入費の一部が未使用となった。R6年度に評価を行う予定であるため、上記の消耗品費はR6年度に使用する。
|