研究課題/領域番号 |
23K17085
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
江 欣樺 東京大学, 未来ビジョン研究センター, 特任研究員 (50964988)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 水質科学 / 政策設計 / 水環境保全 / 地域産業 / 生物多様性 |
研究実績の概要 |
本研究は理想的なリン循環を描き出すシナリオの設計を目的し、2023年度ではリン循環(排出、処理と消費)の影響要因の推定とエージェント(人間活動・生き物と水環境)の相互関係を分析する。 【(1)影響要因の枠組設定】国内外の文献調査を行い、水環境システムにおけるリンの役割に関する先行研究に基づき、システマティックレビューを実施した。ジャーナル論文374件の公開年度や分野などの属性を整理し、さらにアブストラクトの内容をテキストマイニングによりグループ化した結果、堆積物、栄養塩、物質流入、植生、プランクトンという5つのテーマが主な要素であった。具体的な影響要因は、①周辺環境(気候条件、河川水系、土地利用)と②水域環境(生態系、底質、地形・地質)で分類し、(2)の事例研究を行う際に課題として着目した。 【(2) エージェント相互関係の考察】前述のレビューにおいて湖沼環境にまつわる論文の数が半分近く占めたため、琵琶湖流域を対象事例とした。レビューで示された要素および影響要因と照合し、マクロレベルにおける琵琶湖の水質環境に関する政策形成と実装の動態を整理した。ミクロレベルにおける人間活動・生き物と水環境の動態では、琵琶湖の固有種であるイケチョウガイと淡水真珠の生産を中心に、歴史的な分析を行った。①周辺環境の変化では、国と自治体の施策により大規模な水資源開発と環境改善に伴い、土地開発が進んで生息地の破壊も見られた。②水域環境の変化では、赤潮などプランクトンの異常発生が顕著であり、外来種の増加もイケチョウガイの急遽減少に関係すると示唆された。 本研究は既往文献のレビューからリン循環の枠組とトピックを設定し、さらに事例研究により各要素の相互関係を精査することで、水環境における物質、技術と社会のつながりをネットワークの視座から解明することに寄与できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度ではリンの循環に関する理解を深め、初歩的な事例調査を行った。まずマクロレベルでのシステマティックレビューに基づき、湖沼環境に着目した。事例対象地となる琵琶湖流域に関しては、長年にわたり蓄積された大量なデータと文献を時間かけて系統化の作業を行った。その結果、現地調査においても報告書などの資料を調達する作業が主となり、一次データの収集には至らなかった。ただし、政策形成に関する構造的、文脈的な分析と、空間情報や観測データの交差について、管見の限りではまだ考察できる余地があり、文献調査とメタ分析を中心に展開する形もあり得ると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の予定では、まず本年度で実施した既往研究のメタ分析を精査し、レビュー論文として執筆する。琵琶湖の事例に関する定性的な考察は口頭発表の内容に踏まえ、論文作成を進めている。一方、枠組となったレビュー論文は英語論文が多かったことで、事例研究をさらに深めるためには、琵琶湖を対象とした文献に関する調査も行っていきたい。政策・技術実装とそれに伴うリン循環ネットワークの側面では、琵琶湖総合開発事業を事例として分析を行い、初歩的な成果を6月の国際学会に発表する予定である。それらの事例研究に基づき、具体的なネットワークを立案し、数値と空間データと照合しながら、シナリオの構築と検証を実施する。メタ分析を中心に展開していくつもりだが、必要に応じて関係者または有識者へのヒアリング調査も行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
事例研究に対する時間と空間の範囲設定に検討を重ね、現地における本調査の予定を2024年度に変更した。また、2024年6月開催の国際学会に採択されたため、繰り越した分の予算は旅費に充当する。
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