研究課題/領域番号 |
23K17102
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
土屋 喜生 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 助教 (20943773)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | フィリピン / オーラルヒストリー / 下層からの歴史 / ミンダナオ島 / 草の根保守 / 投票行動 |
研究実績の概要 |
予定通りフィリピンのミンダナオ島、ダバオを中心に人々の個人史に着目したオーラルヒストリーの収集に取り組んでいる。出向先の生徒や研究者たちの協力もあり、該当期間中に約150人(事前調査を含めれば約250人)の方々の個人史を収集することに成功した。これらのインタビューには、多くの女性たち、田舎の農民たち、投降した共産党系武装組織のメンバー、麻薬中毒者、「麻薬との戦争」の前線に立たされた末端の政府職員たちなど、これまで政治や歴史の主体として自ら語ることの少なかった人々の証言も含まれている。内容的にも、多様なミンダナオの人々がどのような日常経験・歴史経験を通して、どのような政治家や政党に投票してきたのかということを、「人々の経験」の観点から再考するに足る豊富な情報を含んでいる。
出向先のアテネオ・デ・ダバオ大学では、この現在進行中の研究課題を組み込んだ授業(大学3年生向けの「東南アジアにおける政治と統治」、4年生向けの「アジアからの政治理論」)や公開講義を行っており、学生や教授陣からも好意的なフィードバックを得ている。特に広範に及ぶ一般の人々の個人史の収集と分析を通した、新たな歴史認識の創出、そして既存の政治学の理論への介入といった面は、新鮮なアプローチだと評価するコメントを頂いている。
ただ京都大学側の会計手続きが基本的に紙ベースである上に(特に海外で調査をする場合)非常に煩雑になりつつあることもあり、現地ミンダナオでインタビューに協力してくれた学生たちへの支払いが数か月に渡り遅れているという問題がある。この点に関しては、早急に予算を執行したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書においては、2023年度は主にデータ収集に集中する計画となっている。計画書段階では、「実施期間中に合計300件のインタビューを集める」という非常に野心的な計画を出していたが、現在までで250人の個人史が集まってきており、若手研究としてはかなり大規模なオーラルヒストリーのコレクションと成りつつある。
インタビュー対象者の層に関しては島内の様々な地域に住む多くの女性たち、農民や投降した共産党系武装組織のメンバー、麻薬撲滅運動の現場での実施者たちと麻薬常習者たち等、多様な層の人々の証言が集まっている。内容的にも、彼らの日常経験、そして彼らがどのように政府の政策を経験・評価してきたかに関する証言は、既存のフィリピン史・政治研究の支配的な見方を変えるポテンシャルを持っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も個人史インタビューの収集は続けていくが、同時に2024年度以降は、データの分析・学会発表・論文執筆の作業に入っていく。 特に今年度の7月から8月までは、学会発表を通して、本研究と私の分析についてのフィードバックを得る期間にしていきたいと考えている。 その後、段々と論文執筆の作業にフォーカスしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
一点目は、フィリピン出向が予定よりも早く始まることとなり、日本で書籍の購入ができなかったこと。二点目は、現地調査に協力する予定だった学生たちの一部にインタビュー対象者の許可が下りなかった等の理由でキャンセルが出たこと。三点目は、実際に調査協力してくれた学生たちに対する謝金の支払いが、フィリピンと日本の間での書類のやり取りに時間がかかったこともあり、数か月に渡って遅延していること。原因の一部としては、日本側の会計手続きの書類が(英訳されたものであっても)海外の研究者や学生にとっては非常にわかりづらいものと成っていること。また日本では紙ベースの事務手続きが求められるものの、海外ではオンライン署名が一般的となっており(印刷機が既にあまり一般家庭に無いため)、印刷・署名・押印・スキャンというプロセスを通すのに時間的にも金銭的にも協力者たちの方にかなりコストがかかること。
2024年度は、前年に購入予定だった書籍、学会参加、そして研究協力者への謝金等に研究資金を使用する予定である。
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