研究課題
本研究では、放射光軟X線を用いた高空間分解能を有するコヒーレン トX線回折イメージングにより、軌道モーメントの空間分布に対する高精度な実空間観測手 法を確立することを目標としている。これにより、近年注目を集める、トポロジカルな磁気構造中に創発さ れる軌道モーメントを可視化し、その微視的機構を解明する。初年度は、コヒーレントX線回折イメージの一種である軟X線タイコグラフィーを行うための実験系の立ち上げを行なった。タイコグラフィー測定は、ピンホールでX線のコヒーレント成分を切り出し試料に照射しながら試料走査を行う方法(ピンホールタイコグラフィー)と、集光素子を用いる結像タイコグラフィーの2種類を想定した。真空チャンバー内に、フレネルゾーンプレートやOSA、2次元検出機であるCCDを設置し、光学素子をピエゾモータでナノメートルスケールで制御可能な光学系を組み立てた。これらの費用の一部を本研究費により負担した。これにより、ピンホールタイコグラフィーと結像タイコグラフィーの2種類のコヒーレントX線回折実験を可能にした。この装置を用いて実際に、放射光施設PhotonFactoryにて、試料としてテストチャートを用いた回折イメージング実験を行い、試料走査を行いながら2次元検出機であるCCDを用いて明瞭なコヒーレント回折像を取得することに成功した。解析手法については、上述の2種類のタイコグラフィーの実験配置に対して、シミュレーションにより実空間像の再構成が可能であることを確認済みである。更に、TV正則化を解析に取り入れて、より収束性を上げることも可能にした。現在は、実験で得られた回折データを解析し、テストチャートの実空間像の再構成に挑戦している。
3: やや遅れている
初年度は、コヒーレントX線回折イメージを可能にすることを第一の目標としていた。実際に真空チャンバーに光学系を構築済みであり、タイコグラフィー測定を行い、コヒーレント回折像を取得することに成功した。一方で、テストチャートからの回折データは現在解析中であり、実空間像が戻ることは確認できておらず、進捗状況はやや遅れている。また、反強磁性体に対するCDIに関してはまだ実施できておらず、テストチャートに対する解析が終了次第、実際の反強磁性体に対する回折イメージングに取り組みたい。
今後の方策として、まずは現在、得られている回折データの解析を終了し、実空間イメージングを成功させたい。その後、カイラル磁性体に対するタイコグラフィー測定を行い、まずはテストチャートと同様に実空間イメージングを成功させたい。この実験は2024年5月に行う予定である。その後、回折像を取得しながらX線のエネルギーを変更することで、回折像のスペクトルを測定する。それぞれのエネルギーにおける回折像から実空間イメージング像を再構成することで、吸収スペクトルを2次元面で取得し、それらに対してスピン・軌道総和則を用いることで、スピンと軌道モーメントを定量的に評価する。この実験は、2024年後期に行う予定である。これにより軌道モーメントの高精度なイメージングを実現し、トポロジカル軌道モーメントの観測に挑戦する予定である。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
JPS Conf. Proc. 38, 011190 (2023)
巻: 38 ページ: 01190
10.7566/JPSCP.38.011190