ヒトは,現在,目の前で起こっている事象から,たとえ実際に目撃していない,未来に起こる事象や,過去に起こったであろう事象を推測することができる。この,心的時間超越を伴う,ヒトの因果推論能力は,どのような神経機構によって支えられているのかということは依然として明らかとなっていない。更に,非ヒト動物が未来の時点を想像する能力を示した研究はあっても,過去の時点を想像する能力を直接的に示した研究はない。そこで,本研究では,比較認知科学の知見を取り入れて新たな行動課題を開発するとともに,時間を超越した因果推論の神経機構を解明するために,機能的磁気共鳴画像 (fMRI) 法や経頭蓋超音波刺激 (TUS) 法といった神経生理学の技術を用いるという,比較認知科学と神経生理学を融合させたアプローチを行う。 今年度は,3個体のニホンザルを対象に,現在の状態から未来や過去の状態を心的に表象する能力の神経機構をMRIを用いて解明するために必要な行動訓練を行った。いずれの個体についても,モックMRI内で,モニター内の左右に提示される刺激に,位置的に対応する2つのアクリル製の箱(センサーボックス)のうちいずれか一方の箱に手を入れることで,刺激選択を行わせた。3個体中1個体については,幾何学図形を用いた数および色の遅延見本合わせ課題を習得した。残り2個体については,現在,幾何学図形を用いた色の遅延見本合わせ課題の訓練を実施中である。来年度も引き続き,訓練を継続して行う予定である。
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