研究課題/領域番号 |
23K17305
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
木村 直樹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (80846238)
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研究分担者 |
中村 信行 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 教授 (50361837)
岡田 邦宏 上智大学, 理工学部, 教授 (90311993)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2027-03-31
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キーワード | 多価イオン / マイクロ波分光 / 多価イオンレーザー分光 / 電子ビームイオントラップ / 準安定状態 / 時間分解プラズマアシストレーザー分光 / 異重項間遷移確率 |
研究実績の概要 |
本課題では、これまで殆ど研究例のない多価イオンのマイクロ波分光実験に挑む。 多価イオンは、その生成・保持自体が特殊技術であり、実験室で常時捕捉できる個数は一般的に10万個程度と少ない。加えて、マイクロ波遷移は遷移強度が弱い上に、検出器の感度も低く、その観測は容易でない。これらの困難を克服すべく、我々は新分光手法『プラズマアシスト・レーザーマイクロ波二重共鳴分光法』を提案している。これは、最近我々が世界で初めて実証した「時間分解プラズマアシストレーザー分光」を発展させた手法である。具体的には、電子ビームイオントラップ(Electron beam ion trap:EBIT)中の多価イオンに対して、レーザーとマイクロ波を照射し、EBIT中の電子衝突過程をも利用して、マイクロ波遷移を極紫外領域の電子遷移に転写する。これによって、本来微弱なマイクロ波遷移に伴う信号を、検出しうる感度まで押し上げる。本課題では、本分光実験向けの小型EBITを新たにカスタマイズして製作する。 2023年度は、新小型EBITの開発に着手した。電子銃やコイルに用いる超伝導線など、必要部材の選定は既に終えており、2024年度の製作に備えている。また、コイル用ボビンなど、一部の部材は2023年度中に手配を完了している。 一方、分光実験で用いるマイクロ波電源は、当初2024年度に購入を予定していた。しかしながら、「昨今の世界情勢の影響を受けて、納入が遅くなるほど価格が高騰する」との情報を掴んだため、予定を前倒しして2023年度中に発注を行い、本年度内に納品を完了した。 また、多価イオンレーザー分光手法の洗練を目的に、既存のEBITを用いた実験も遂行し、Be様多価イオンAr14+の量子電磁力学に敏感な禁制遷移を分光観測することに成功した。本分光実験では、Ar14+の異重項間遷移の遷移確率を測定することにも成功している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新小型EBIT開発のスケジュールだけで見ると、当初の予定よりも若干遅れている。これは、研究代表者(木村)の本務先変更に伴う遅れである。 一方、マイクロ波電源の選定作業が前倒しとなったこと、Ar14+のレーザー分光実験に成功して最終目標に向けた知見が積みあがったこと、など予定外の進捗も数多くあった。 これらの事情を鑑みて、「おおむね順調に進展している。」と総合的に判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者(木村)の新しい本務先である東京理科大学の実験室にて、新小型EBITの開発を進める。その一方で、電気通信大学に設置されている既存の小型EBITを用いて、極紫外や可視域の遷移波長など、マイクロ波分光実験対象の選定に必要な実験データの測定を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者(木村)の本務先異動(2024年4月、理化学研究所から東京理科大学へ)が決定し、「新小型EBIT開発の拠点をどこに置くか」を慎重に検討する必要があった。開発拠点の実験室環境によって購入部材も一部異なってくるため、どこの拠点であっても共通で使える部材以外の発注を控えた。 検討・調整の結果、2024年度からの本務先である東京理科大学の実験室を開発拠点とすることとしたので、本実験室の環境にあわせて開発・設計作業を進める。
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