研究課題/領域番号 |
23K17336
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
榎 学 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (70201960)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | アコースティック・エミッション / データ同化 / チタン合金 / 滞留疲労 |
研究実績の概要 |
鍛造 Ti-6Al-4V 合金に対して、引張、単純疲労、および滞留疲労試験を行った。高分解能画像相関(HR-DIC)を用いて、試験中の表面におけるすべり線を定量的に解析する手法を開発した。HR-DIC解析では、金属薄膜の蒸気によるリモデリングによりナノスケールのスペックルパターンを試料表面に作製し、そのスペックスパターンを走査型電子顕微鏡 (SEM) の後方散乱電子 (BSE) モードによって特徴付けた。ピーク応力の異なる単純疲労および滞留疲労試験中に試験を中断して、途中止めした際の画像取得を行った。DIC計算は、Ncorr と呼ばれるオープンソースの MATLAB ツールボックスを用いて実行した。取得した画像を用いて、自動的にすべり線およびひずみを解析するフレームワーク(ASSISL)を確立した。まずひずみを除去したEBSDマップを用いて、ラドン変換(RT)に基づく自動スリップトレース解析を実行した。その結果、すべり帯による変形に関する定量的な解析を行うことが可能となった。HR-DIC解析により、結晶粒より小さい領域下での局所的なひずみ、特にすべり帯に沿ったひずみを明らかにすることに成功した。 疲労試験の進行に伴い、すべり帯の数の増加と、すべり帯に沿ったひずみの増加を明らかにすることができた。自動すべり解析により、すべりの追跡解析とともに、すべり帯の数、すべり帯に沿った平均ひずみ、すべり帯によるせん断変形を自動的に抽出できた。これによりすべり変形活動の進化を定量化できた。また、試験中にAE計測も行い、すべり変形とAE信号の対応関係に関する解析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単純疲労と滞留疲労の両方において、一部のすべり帯内の等価ひずみが、他のすべり帯内のひずみと比較して劇的に増加することがわかった。すべり損傷サイトと呼ばれるこれらの部位は、き裂発生部位である可能性があった。これらの部位はマクロゾーンには関係なく、対象領域全体にわたって特定され、き裂の発生にマクロゾーンの影響がないことが判明した。すべての荷重の滞留疲労寿命が単純疲労寿命と比較して短いことがわかった。単純疲労と比較して、滞留疲労ではひずみの蓄積が大きく、荷重保持が疲労に悪影響を与えることが示された。またAE 挙動は微視組織の違いに強く依存することもわかった。
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今後の研究の推進方策 |
き裂発生につながる可能性のあるすべり損傷は、単純疲労と滞留疲労ではマクロゾーンとは無関係であるように思われるが、一方滞留疲労でのき裂伝播はマクロゾーンに関連していた。また、滞留疲労破壊では、引張モードと疲労モードという 2 つの異なる破壊モードが特定され、2 つのモード間で異なる AE 挙動が起こり得ることが発見された。今後は、特に滞留疲労試験の HR-DIC 結果に基づいて数値シミュレーションを予定している。 さらに、予備的な AE 源解析結果を確認するために、AE 測定を伴うその場滞留疲労試験をさらに実施する予定である。AE解析結果によるひずみ蓄積推定とき裂進展シミュレーションに基づいた、構造健全性モニタリング手法の確立を試みる予定である。
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