研究課題/領域番号 |
23K17341
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
荒岡 史人 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, チームリーダー (10467029)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | 液晶 |
研究実績の概要 |
本研究提案では、近年報告されている流動性を伴った全く新しいソフトマターの強誘電体である「強誘電性ネマチック」について、前例のないソフト・エレクトロ-メカニカル素子への応用を指向した開発研究を行うものである。ここでは特に、その柔らかさの本質である粘弾性や流動性に注目することで、固体では困難 な応用の一つとして低消費電力かつ固体で不可能な大変位を「柔らかさ」により可能とするソフト・アクチュエーション素子、および流動性によって電場で直接駆動する強誘電流体システムの実現を第一に目指している。 ここまで、分子の大量合成法を開発し確立するとともに、室温を含む広い温度範囲で強誘電性を示す材料の探索を行った。これにより、有力となる分子を複数個発見し、論文にて報告している。この成果は、本研究で目指す柔らかさや流動性を制御し、より扱いやすい性質を持った材料を探索する上でも重要なものであり、また、今後の新物質創製においても分子構造と物性の相関を予測する上で指針となるものである。また、柔らかさや流動性を評価する試みとして、レオメーターを用いた粘弾性測定を行った。これにより、強誘電性ネマチックが通常のネマチックと異なる粘弾状態を持っていることを突き止めた。また、電場を印可しながら粘弾性を測定する特殊な実験において、これら粘弾状態が電場により変調される現象を確認した。特に、DIOと呼ばれる物質においては、電場により数千倍も粘弾性が変化することが確認された。このことは、物質内部の力場を大きく変化させることのできる性質として、上記目的を達成するために重要な成果である。この内容は、現在、論文投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年報告されている流動性を伴った全く新しいソフトマターの強誘電体である「強誘電性ネマチック」について、前例のないソフト・エレクトロ-メカニカル素子への応用を指向した開発研究を行うものである。ここでは特に、その柔らかさの本質である粘弾性や流動性に注目することで、固体では困難 な応用の一つとして低消費電力かつ固体で不可能な大変位を「柔らかさ」により可能とするソフト・アクチュエーション素子、および流動性によって電場で直接駆動する強誘電流体システムの実現を第一に目指している。 本年度は研究開始の年度であり、ここまでの進捗は本年度の成果に準ずる。本研究で目指す動的機能の実現という目的に叶った強誘電性ネマチック材料の探索を行うため、分子の大量合成法を開発し確立するとともに、室温を含む広い温度範囲で強誘電性を示す材料の探索を行った。これにより、有力となる分子を複数個発見した。これは、柔らかさや流動性を制御し、より扱いやすい性質を持った材料を探索する上でも重要なものであり、また、今後の新物質創製においても分子構造と物性の相関を予測する上で指針となる。また、柔らかさや流動性を評価する試みとして、レオメーターを用いた粘弾性測定を行い、電気レオロジー応答、すなわち物質内部の力場を大きく変化させることのできる性質を確認した。したがって、本研究の目標となるアクチュエーションの材料、および流動状態の実現に向けた物性評価は進んでおり、概ね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に基づき、今後は第一にアクチュエーション素子の実現を目指す。強誘電性ネマチック液晶に架橋モノマーと重合開始剤を混合させ、光重合により架橋ポリマー化させることで強誘電状態の半固定化を行い、アクチュエーター素子の基材となる強誘電ゲルを作製する。ポリマー化させる強誘電性ネマチック液晶は、既存物質のほか、前年度に開発した新物質を用いるが、ポリマー化、ひいては力学特性の評価においては多量の物質が必要であるため、やはり前年度に開発した手法により大量合成を行う。作製した架橋ゲルについては、力学特性のほか、圧電効果や非線形光学特性などの機能物性を調べることで強誘電性を確認し、狙った性能が実現できているかを評価してゆく。架橋ポリマー化が困難である場合は、通常のネマチック液晶で既に確立されている液晶架橋ポリマーに、強誘電性ネマチック液晶を浸潤させ置換することでこれを実現するほか、ラミネートによる安定化などを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は順調に推移し、計画通りアクチュエーターの実現に向けた強誘電性ネマチックを創出することができた。当初の予定では粘弾性を評価するための測定装置を初年度に導入する予定であったが、円相場の変動や世界的な価格高騰によりこれを導入できなかった一方、開発した材料の素性が良く、ここまでのところでは既存の装置を改良することで測定を行ってきている。今後は圧電性の評価や電気下の粘弾性測定など当初の計画に則った専用装置が必要である見込みであるため、次年度使用を行うこととし、装置の調達を次年度に行う。
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