研究課題/領域番号 |
23K17357
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
波多野 雄治 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (80218487)
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研究分担者 |
谷 正彦 福井大学, 遠赤外領域開発研究センター, 教授 (00346181)
古屋 岳 福井大学, 遠赤外領域開発研究センター, 助教 (20401953)
山ノ井 航平 大阪大学, レーザー科学研究所, 准教授 (30722813)
猿倉 信彦 大阪大学, レーザー科学研究所, 教授 (40260202)
小林 かおり 富山大学, 学術研究部理学系, 教授 (80397166)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | トリチウム / 水 / レーザー / 振動励起 / 電子励起 |
研究実績の概要 |
低濃度トリチウム水からトリチウム(T)を水素分子HTとして直接回収する技術は、将来の核融合炉排水からのトリチウム除去技術等として期待される。本研究では、トリチウム水分子HTO中のOH振動とOT振動のエネルギーに大きな同位体効果があることに着目し、レーザーを用いてOT結合のみを選択的に切断することを目指す。HTOのみを選択的に励起するため高いエネルギー効率が期待できる。また、本法ではリスクが高い高濃度トリチウム水は生成されない。一方で、対象とする圧力領域におけるHTO分子の光学特性についてはデータがほとんどなく、かつ対象とするHTOの濃度は著しく低く、極めて挑戦的な課題である。 具体的には、トリチウム水分子HTO中のOT振動とOH振動のエネルギー差(同位体効果)を利用し、まず赤外レーザーを用いてOT振動のみを選択的に励起したのち、紫外レーザーにより励起状態にあるOT振動のみを切断する。 2023年度はOT振動の光吸収に関する文献データを整理すると共に、HITRANデータベース (https://hitran.org/) およびSpectroscopy of Atmospheric Gasesデータベース(https://spectra.iao.ru/home)を用いて全ての水素同位体 (H, D, T) と酸素の天然同位体 (16O, 17O, 18O)の組み合わせにおける振動励起波長を調べ、他の準位の干渉が弱い16O-T振動励起準位をリストアップした。当該波長を発信するレーザーの入手容易性も含めて、ターゲットとすべきOT振動励起準位を選択した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
世界的なサプライチェーンの乱れのためレーザーの納期が長期化しており、2023年度内に調達ができず、実験開始に至らなかった。そのため、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
以下、軽水素をH、重水素をD、トリチウムをTと表記する。2023年度に選定した振動励起波長に相当する赤外レーザー光と、その振動励起状態にあるOT結合を切断するのに適切な波長の紫外レーザー光を希薄T水に照射し、Tの回収を試みる。候補となる振動励起波長は複数あるため、振動励起には可視赤外波長可変パルスレーザーを用いる。まず、既知濃度のHDOを含む試料水でD分離実験(コールド試験)を十分に行ったのち、既知濃度のHTOを含む試料水で原理実証試験を行う。原理実証試験の手順を以下に記す。 (1) 可視赤外波長可変パルスレーザーを用い、OT振動励起準位付近の波長の光を種々のトリチウム濃度のトリチウム水に照射し、吸光度の波長依存性およびトリチウム濃度依存性を調べる。これにより、励起効率(量子収率)およびH2O、HDOに対する選択率を評価する。 (2) HTO中のOT振動のみを選択的に励起したうえで、紫外可視パルスレーザーにより励起状態にあるOT振動のみを選択的に切断する。紫外光の波長は、OT振動の励起準位により変化させる。遊離したT原子は、差動排気された質量分析計で検出する。この結果から、赤外光と紫外光を含めたOT切断の選択率(切断T原子数/切断H原子数)を評価する。 (3) 水中にアルコール等の含H分子を添加する、あるいは水蒸気と含H分子を共存させることにより遊離したTと含H分子を反応させ、HTとして回収する。得らえれたHT収率と選択率より、大量の低濃度トリチウム水からトリチウムをHT分子として回収するためのコストを概算し、工業的成立性を検討する。 (3)'あえてOD振動とOT振動の励起エネルギーが近い波長を選択することによりDとTを同時に切断し、DT分子として回収することも試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界的なサプライチェーンの乱れによりレーザーの納期が長期化し、2023年度内に納品が間に合わなかったため次年度使用額が生じた。2024年度のレーザー購入に充てる予定である。
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