研究課題/領域番号 |
23K17365
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩谷 光彦 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (60187333)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2029-03-31
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キーワード | 元素中心金属イオンクラスター / カルベン配位子 / ヘテロ金属イオンクラスター / 混合原子価金属イオンクラスター / 酸化還元触媒反応 |
研究実績の概要 |
本研究は、金属イオンとコア・シェル配位子から成る、高活性一原子中心金属イオンクラスターの設計概念と構築法を確立し、その立体構造や電子状態の動的特性に特異な高効率・高選択的触媒反応を開拓することを目的とした。令和5年度は、(1) コア配位子(炭素、窒素、リン、酸素)とシェル配位子(カルベン、ホスフィン配位子)による金属イオンクラスターの金属イオンの種類・数、配列の制御、(2) 酸化還元活性部位を有する混合原子価金属イオンクラスターの合成、(3) 炭素中心金属イオンクラスターのエッチング法の確立、に焦点を当てた。以下にそれらの研究成果の概要を示す。 (1) 炭素中心六核金(I)クラスター、リン中心六核金(I)クラスター、窒素中心5核金(I)クラスター、酸素中心四核金(I)クラスターの合成法を確立し、それらの光物性の測定を行った。金(I)の核数が少ないほど、隣合う金(I)間の距離が長くなり、その反応性が高くなることが示された。 (2) 炭素中心六核金(I)クラスターの一つの金(I)を金(III)に酸化することに成功した。この反応は、有機基質との酸化的付加反応を伴って進行するため、次の還元的脱離反応とカップリングすることにより触媒サイクルが完成すると期待される。 (3) 炭素中心六画核金(I)クラスターにホスフィン配位子を加えることにより、炭素中心五核金(I)クラスターを高収率で合成することに成功した。上記(3)の結果は、近日中に査読付の国際学術誌に発表される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、高活性な一原子中心金属イオンクラスターの設計概念と構築法を確立し、その立体構造と電子構造の動的特性を最大限に活用し、高効率・高選択的触媒反応を開拓することを目的とした。令和5年度は、本研究の基盤となるコア配位子(炭素、窒素、リン、酸素)とシェル配位子(カルベン、ホスフィン配位子)から成る種々の金属イオンクラスター(炭素中心六核金(I)クラスター、リン中心六核金(I)クラスター、窒素中心五核金(I)クラスター、酸素中心四核金(I)クラスター)の合成に成功し、それらすべての結晶構造を決定した。まら、それらの光物性と金属イオンの種類・数、配列の相関を明らかにした。特に炭素中心六核金(I)クラスターについては、架橋配位子を用いたエッチング法による金属核数を減数化や、点融合型および面融合型二量体の合成に展開することができた。前者の結果は、金属イオンクラスターの高活性化につながり、後者の結果は、金属イオンクラスターの平面配列あるいは三次元配列に展開できることが期待される。さらに、炭素中心六核金(I)クラスターの一つの金(I)を金(III)に酸化した、混合原子価金(I)イオンクラスターの合成に成功した。この合成反応は、有機基質との酸化的付加反応を伴って進行するため、還元的脱離反応とカップリングした触媒サイクルの構築が可能になるだろう。 以上のように、本研究では、種々の一原子中心金属イオンクラスターおよび酸化還元活性金属イオンクラスターの合成、構造決定、光物性の解明に成功した。特筆すべきことは。高対称性金属イオンクラスターを合成化学的に低対称性金属イオンクラスターに変換することにより、反応性の高い金属イオンクラスターを構築できることを実験および理論計算により実証できたことである。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度以降は、これまでに合成した種々の一原子中心金属イオンクラスターの位置選択的活性化と触媒サイクルを実現するために、以下の項目に焦点を当てて研究を推進する。 (1) 有機基質と炭素中心六核金(I)イオンクラスターとの酸化的付加反応により得られた、混合原子価金イオンクラスター中の金(III)イオンを触媒活性中心にすべく、酸化的付加反応と還元的脱離反応が交互に起こる触媒反応条件を検討する。 (2) 架橋配位子を用いたエッチング法を用いて合成した。擬四角錐型構造の炭素中心五核金(I)イオンクラスターの第6配位部位付近の反応性を検討する。 (3) 異なる中心原子(窒素、リン、酸素)の(1)と(2)の反応性への効果を検討し、その違いを生じる原因を明らかにする。 (4) これまでに合成した面融合型および点融合型クラスター二量体を用いて、上記(1)-(3)と同様の方法で、特に二量体のジャンクション周辺の金属イオンクの反応性を検討する。 以上の研究で得られた結果を基に、一原子中心金属イオンクラスターの立体構造と反応性との相関を明らかにし、高活性金属イオンクラスターの構造要件や反応機構を詳細に調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時に当研究室の特任助教を務めていたZhen Lei博士は、本研究の中心的役割を担っているが、2023年5月から中国福有大学の教授に昇進したため、2023年3月末に東京大学を退職してから福州大学で新研究室を立ち上げるまでの期間、研究を一時中断をせざるを得なかった。また、研究代表者の塩谷光彦は、2024年3月末に東京大学の定年退職したため、同年3月末は研究室を整理するため、実験研究を一時中断した。本年4月からは、塩谷は東京理科大学で新研究室を立ち上げ、Lei教授の研究室も約10名の学生を得、共同研究を継続している。初年度の研究成果の投稿も準備中であり、今後の研究推進は全く問題はない。
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備考 |
2024年3月31日に所属する東京大学を定年退職し、同年4月1日に東京理科大学 研究推進機構 総合研究院に異動したため、現在のWebページは更新中である。
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