研究課題/領域番号 |
23K17415
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
佐々木 伸雄 群馬大学, 生体調節研究所, 教授 (30777769)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2027-03-31
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キーワード | オルガノイド / 腸内細菌 / 共培養システム / 数理モデル |
研究実績の概要 |
本課題研究は,嫌気性細菌コミュニティが存在する腸管環境をin vitroで再現し,宿主-微生物間,または最近同士の相互作用(変動)を予測する数理モデルを構築することである.そのために,3つの独立した課題を設定し,互いに相補しながら効率的に進めている. 1. 新規オルガノイド培養系の開発:当研究室は2021年に立ち上がった新設研究室であり,これまでマウス腸管オルガノイドのみ培養を行ってきた.本課題採択を機に,ヒト腸管オルガノイドの樹立を試みた.所属大学附属病院の協力の下,ヒト検体を用いた臨床研究の申請を行い,無事本課題推進の承認を得ることができた.実際に,大腸癌患者の手術検体の非癌部(正常上皮組織)を入手し,ヒト大腸オルガノイドの樹立を試みた.オルガノイド培地の適正化を図ることで,当研究室においても安定したオルガノイドを培養することができた.また,オルガノイドと腸内細菌を共培養するデバイス開発については順調にすすんでおり,PCによるスピード制御が可能なモーターを搭載した灌流装置を完成させることができた.また,腸内細菌と一緒に培養するオルガノイド培養器については,様々な培地容量が入る容器を作成し,適切なサイズの検証を行った. 2. 数理モデルの構築:本課題では腸内環境を再現し,微生物同士の相互作用変化を予測することを目指す.そのため複数細菌の時系列変動を定量的に解析する必要がある.当該年度は,使用する微生物群のそれぞれを特異的に認識するプライマー配列を決定した.実際に,qPCR法を用いて各微生物の変化を定量的に解析することに成功した. 3. 疾患生物学との融合:本課題については当該年度は研究予定がないため,本課題に関する進捗報告はない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度に設定した各課題のマイルストーンの全ては達成できた.懸念事項であったヒト検体の入手については共同研究(慶應大学)先から分与して頂けただけではなく,新規に群馬大学附属病院が協力してくれることになったため,我々の研究室でも無事ヒトオルガノイド培養を開始できた.また,前職で開発したヒト大腸オルガノイドと嫌気性腸内細菌の共培養システムが本学においても再現でき,安定的に嫌気性細菌とヒト代腸上皮細胞を同時に培養することができた.そのため灌流オルガノイド培養装置の開発も順調に進めることができたので,本課題の進捗状況は,概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
1.新規オルガノイド培養系の開発:灌流装置のついた新規オルガノイド培養装置のプロトタイプを完成させたいので,今後は灌流させる培地の流速の適正化を図る.また,オルガノイド培地は大変高価(約1,000円/mL) であることから,最小容量の培養容器の作成を試みる.また実際に,嫌気性腸内細菌とオルガノイドの共培養に挑戦し,最低でも3日間の共培養を可能にする条件を見出す. 2.数理モデルの構築:課題1で作成したオルガノイド共培養装置で,複数の腸内細菌を同時に投入し,それぞれの細菌の時間的変化を追跡する.そのために,まずはオルガノイドがない条件(通常の液体培地のみ)で最適な腸内細菌の組み合わせを見出す. 3.疾患生物学との融合:共同研究者の群馬大学附属病院チームと連携して,消化管疾患患者(大腸癌,または潰瘍性大腸炎)から検体を入手し,疾患上皮由来オルガノイドの樹立とその表現型の解析を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は,ヒトオルガノイド培養を開始するにあたり,ヒト検体を用いた臨床試験の申請などを行う必要があった.共同研究者の慶應大学で樹立したオルガノイドを群馬大学に移動させるにあたり,本倫理申請の準備に時間が掛かってしまったことで,共培養試験できた微生物の種類が少なかった.そのため,微生物が与える宿主細胞変化を調べるためのRNA-seq (外注費),またその試薬に関する購入費がかからなかった.また,雇用予定であった技術職員の公募を出していたが,適切な人材の応募がなかったため,予定していた人件費を使用することが無かった.
当該年度は,新たに群馬大学附属病院からヒト検体を入手できることになったため,様々な年代,性別,消化管部位ごとのオルガノイドを樹立する予定である.そのため,樹立したオルガノイドの遺伝子情報(genotype)を調べるために,全エクソーム解析を予定する.こちらの解析についても,外注を予定しているので,差額分については来年度にその解析経費として使用する.
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