研究課題
「2型自然リンパ球(ILC2)」の代謝改善作用が注目を集めている。肝臓が多くのILC2を含んでいて、腸管からの外界抗原や高濃度の栄養素が流入するインスリン標的臓器である点に着目し、肝臓に存在するILC2の機能と血糖調節作用の関係を検討した。まずILC2活性化が肥満マウスの肝臓における血糖値と糖新生酵素レベルを低下させるかどうかを調べた。レプチン受容体欠損(db/db)肥満モデルマウスに、IL-33腹腔内によりILC2を活性化した結果、空腹時血糖値が低下し、糖新生の律速酵素である肝臓G6pcの遺伝子発現レベルの低下認めた。この効果は、ILC2の欠損マウスでは観察されなかったことから、rIL-33によるグルコース低下作用は、肝臓ILC2が介在していることを明らかにした。次に、肝臓ILC2の多様性と血糖制御特性のメカニズムを明らかにするために、肝臓を対象に(脂肪・心臓・肺を比較対象)、FACSによるILC2 sorting及び、scRNA-seq/scATAC-seq(マルチオーム解析)を施行した。その結果、GATA3はILC2における細胞生存とIL-13産生に重要な転写因子であることが確認され、肝臓ILC2により多く発現し、ILC2活性化に伴い誘導する遺伝子として、GATA3の標的遺伝子群(IL-13、Areg、Il1rl1、Gzma)が同定された。さらに、細胞間相互作用解析によって、in vivoではIL-33-IL-13軸を介して特定の肝細胞クラスターで糖新生経路が抑制され、その結果として血糖低下作用を発揮していることが明らかとなった。現在、scATAC-seqとscRNA-seqのクラスター間のDEGsから得られる転写因子モチーフ解析を利用して、糖代謝制御性ILC2の機能発現に関わる転写因子候補を抽出して、機能解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
レプチン受容体欠損(db/db)肥満モデルマウスや高脂肪食負荷などのマウスモデルに対して、血糖負荷試験などの解析手技のノウハウと実績があったため、生体糖代謝の評価において、順調に進捗を認めた。また、肝臓や組織ILC2を対象としたシングルセル解析のステップにおいて、組織preparationなどの条件検討が難航することが予想されていたが、先行論文の条件や学内の他の共同研究により技術的支援を受けられた理由から、進捗は概ね順調であった。また、シングルセル解析のデータ解析においても、研究室にスペックの高いデータ解析PCが複数台準備してあったことも、進捗が概ね良好であったことに寄与していると考えられた。
後の研究推進の方策として、肝臓ILC2の特性を制御するGATA3転写複合体比較解析を推進する。具体的には、高感度LC-MS/MSを用いて、肝臓ILC2特異的・糖代謝制御性ILC2クラスターのGATA3転写複合体解析と転写因子間ネットワークの検索を行う。これにより、scRNAseq/scATACseqによって抽出された転写因子候補や関連制御パスウェイと組み合わせることで、GATA3依存的にco-factorが動員されるゲノム領域を同定し、ILC2細胞における臓器特異的な遺伝子発現制御機構を明らかにする。これらは、血糖制御性メカニズムのコアな分子メカニズムになることが想定され、創薬基盤になる可能性が高い。またもう一つの研究推進の方策として、解剖学的特性に基づく臓器特異的ILC2のホーミングシグナル解析を行う。具体的には、組織構成細胞全体の核抽出を用いたscRNA-seqデータベースを用いて、層別化したシングルセルクラスターと糖代謝制御性ILC2クラスターにおけるcell-cell interaction解析を行う。同時に、空間的遺伝子解析法を用いて、組織位置情報を紐付けしながら、特定の肝細胞クラスター(肝臓は、肝区域による機能的相違とzonation markerに着目する)と免疫細胞のcell-cell interaction解析を行う。このように、インスリン標的臓器である肝臓を対象としたシングルセルマルチオームと空間的トランスクリプトーム解析を統合的に検討することで、免疫―代謝連関の新しい制御メカニズムと、それに基づく新たな創薬シーズの提唱が可能となる。発展的には、ILC2の糖尿病治療への応用を見据えて、ヒト末梢血単離ILC2を糖代謝制御性ILC2に形質転換できるかの検証的研究を可能な限り推進する。
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