研究課題/領域番号 |
23K17560
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
遠藤 正寛 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (80281872)
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研究分担者 |
東田 啓作 関西学院大学, 経済学部, 教授 (10302308)
牧岡 亮 北海道大学, 経済学研究院, 講師 (10836323)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | 漁業生産性 / 漁獲構造 / 東日本大震災 / 輸出 / 魚市場 / 高齢化 |
研究実績の概要 |
2023年度は以下の二点について、分析を進めた。 一点目は、漁業者単位、そして漁業地区単位での生産性の分析である。2003年、2008年、2013年、2018年の漁業センサスの海面漁業調査の調査票情報を用いて、日本海沿岸、北海道、岩手県、青森県といった地域毎に、各漁業者の生産性を測定し、その分布の導出を行った。生産性の計算には、データ包絡分析法と生産関数の推計の二つの方法を用いた。また、漁業者の投入としては、漁船のトン数と操業日数、海上作業従事者数、養殖施設の有無などを、産出としては漁獲額を、それぞれ用いた。その結果、漁業者の生産性は個人経営体よりも団体経営体(共同経営や会社など)の方が有意に高いことがわかった。ただ、時系列的な生産性分布の変化や、それを生じさせる外的要因(東日本大震災やホタテの輸出増加など)の影響の度合いについては、有意な結果を得られなかった。さらに、各漁業者を、全国で2200弱存在する漁業地区毎に集計して、漁業地区単位での生産性も分析したが、やはり漁業地区単位での生産性の分布の変化とその要因については、有意な関係は得られなかった。 二点目は、漁業センサスの魚市場調査の調査票情報を用いて、東日本大震災が各魚市場での取引に与える影響を分析した。暫定的な結果としては、東北三県の魚市場での取引トン数や買受人の数について、東日本大震災負の影響が観察されるものの、結果の解釈や背後のメカニズムについては、引き続き分析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究の進捗が遅れていることの主な理由は、漁業経営体の生産性の推計の困難さと、因果関係の特定の困難さの二つである。 漁業経営体の生産性の推計については、以下の困難さがあった。まず、船外機付漁船の出漁日数や陸上作業者の作業日数がないなど、推計に必要な情報が不足していた。また、魚種、漁法、養殖施設が多様で、それを単一の指標にまとめることが難しかった。気象や魚の資源量など、漁獲高に影響を及ぼす外生変数も、十分にコントロールできなかった。加えて、個人経営体の漁業従事者の一部は団体経営体の共同作業にも参画しているので、相互の関連も考慮する必要があった。 因果関係の特定の困難さについては、漁業センサスが5年ごとに実施される調査であること、養殖であれば稚魚・稚貝から成魚・成貝まで数年かかるため生産者は生産量を価格変化に応じて柔軟に変えることをしないこと、漁業センサスで漁業経営者を時系列でたどることができないことなどがその要因であった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的である「漁業者のネットワークや慣習の喪失が逆に組織・コミュニティのレジリエンスを強めたかどうか」、「気象などの自然要因の影響によってそのレジリエンスが変化したか」ということを、漁業地区の生産性と、漁業地区の構成員(漁業者)の生産性の分布との関係、および関係の変化を抽出することによって明らかにしていく。2024年度は、その他の漁業地区データと合わせて分析を行っていく予定である。また、東日本大震災が魚市場に与える影響の分析では、漁業地区ごとの人口の年齢構成や他セクターでの就業可能性等の地区の特性が、外的ショックを緩和・利用する際の重要な手がかりであることが予想されるため、今後は現在の分析をさらに深化させ、地域間の違いをさらに考慮することを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度に漁業協同組合の調査に行けなかったため、また、漁業・気象関連のデータを購入しなかったため、次年度使用額が生じた。 2024年度には漁業協同組合の調査を複数回行い、また、漁業・気象関連データを分析に使用し、それら成果を研究に役立てる。
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