研究課題/領域番号 |
23K17606
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
安藤 秀俊 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (70432820)
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研究分担者 |
奥寺 繁 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (20625941)
伊藤 文紀 香川大学, 農学部, 教授 (50260683)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | チョウ / 絶滅危惧種 / 生育域外保全 / フィールド調査 / 環境教育 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は大きく2つあり,一つは「絶滅に瀕するチョウ類の保全と現状把握」であり,もう一つは「絶滅に瀕したチョウを題材とした環境プログラムの構築と啓蒙活動」である。 令和5年度は,推定で50頭程度とされ,日本で最も絶滅が危惧される,北海道様似町アポイ岳のヒメチャマダラセセリ(Pyrgus malvae)の生育域外保全(人工飼育)に取り組んだ。環境庁と文化庁の許可を得て,日本チョウ類保全協会等が強制産卵させた約200卵の譲渡を受け,北海道教育大学旭川校内で幼虫の飼育を行い,87個体の蛹を得ることができた。これらの蛹のうち,壊死,菌類に汚染されたものを除き,2024年の5月にアポイ岳麓のアポイ岳ジオパークセンター等,様似町の施設を利用して人工的に交尾させ,次世代の採卵を試みるとともに,雄や母蝶の一部はアポイ岳に放出・返還した。 またヒメチャマダラセセリ以外の絶滅危機に瀕するチョウとして,6月に中国地方のヒョウモンモドキ,ウスイロヒョウモンモドキ,ヒメヒカゲ,3月に南西諸島のリュウキュウウラボシシジミ,アサヒナキマダラセセリの生育実態について現地調査を行った。 いずれのチョウも生息域の環境に大きく左右されているが,特に,ヒョウモンモドキとウスイロヒョウモンモドキは,地域の昆虫館などで人工的な環境で種をかろうじて維持できている現状が明らかになった。 一方,チョウを題材とした環境プログラムについては,北海道東川町の中学校で,ヒメチャマダラセセリの人工飼育とアポイ岳での保全活動の様子を題材とした理科授業を行い,中学生の環境に関する意識などについてアンケート調査を行い,その結果について構造方程式モデリングの解析を行い,これらの結果は学会などで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度にヒメチャマダラセセリの生育域外保全については,80個体以上の蛹を生育させることができ,研究計画は順調に進展していると思われる。ただし,まだ人工的に交尾させる技術が困難であること,強制産卵にかなりの労力を要すること,孵化不全の未受精卵が多いこと,人工気象器での飼育では食草のキンロバイにダメージが大きく,食草の確保に難点があるなどの課題が残されている。
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今後の研究の推進方策 |
ヒメチャマダラセセリの生育域外保全がある程度順調に進む中で,全国で60種以上いる,他の絶滅危惧種のチョウ類の生育状況の現状把握はなかなか進展していない。これはチョウの発生時期が重なることで,一度に調査ができないことなどが挙げられるが,これについては,来年度できる限り全国を周り,絶滅危機に瀕するチョウ類の実態調査を行いたい。 また,「絶滅に瀕したチョウを題材とした環境プログラムの構築と啓蒙活動」については,北海道の中学校で実践した例を元に,更なる教育現場での追加の授業実践,学会での発表や論文の投稿などを通じて,社会への啓蒙活動を継続していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,全国の絶滅危機に瀕するチョウ類の現地調査がなかなか進まなかった。これは本研究費が6月以降の執行となり,既に春に年1化性で羽化するチョウについては,調査時期を逸したことや,チョウ類の羽化が春から夏の5月から7月に集中して,調査時期が重なってしまうことが大きい。こうしたことから,次年度はできるだけ計画的に現地調査を行っていきたい。
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