研究課題/領域番号 |
23K17660
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木村 尚次郎 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (20379316)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 光誘起磁化 / 電気磁気効果 |
研究実績の概要 |
結晶構造において空間反転対称性が破れた常磁性体では、二次の電気磁気効果のため直交した電場と磁場を印加することでこの両者に垂直な磁化が発生させることが可能な場合がある。この現象は振動電場と振動磁場が直交する光の照射によっても生じることが期待され、その進行方向と平行または反平行に静的な磁化を発生させられると考えられる。この空間反転対称性の破れた常磁性体への光照射によって誘起される微弱な磁化を検出するための手法として、パルスレーザー照射下での誘導法による磁化測定を採用することにした。すなわちパルスレーザーを照射した瞬間に発生する磁化によってその周辺に生じる誘導機電力をピックアップコイルで観測する。これに用いるためのピックアップコイルを作成した。測定感度を向上させるにはコイルに対する試料のフィリングファクターを高くすることが望ましいため、肉厚0.15 mmとなるべく肉薄にしたボビンをベークライトを用いて自作しこれに線径0.08 mmの銅線を約200ターン巻いた内コイルと、その外側に試料のない状態でこの内コイルの誘導起電力を打ち消す外コイルを同軸上に設置した。このピックアップを用いて本研究で測定対象とする遷移金属錯体[MnIII(taa)]の二次の電気磁気効果による磁場中での微小な電場誘起磁化の観測を試みたところ、この物質が属する結晶点群Tdで期待される磁場に垂直な電場誘起磁化の発生を検出できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光照射によって誘起される微弱な磁化を検出するためのピックアップコイルを作成することで金属錯体[MnIII(taa)]の二次の電気磁気効果による微小な電場誘起磁化の観測ができ、10^-6 emuオーダーの磁化を検出可能であることが示せた。また、[MnIII(taa)]単結晶試料の追加の提供を共同研究者から受けるとともに、もう一つの測定対象としているキラル錯体NiSO4・6H2Oに関しても水溶液法で単結晶作成を行い、レーザー光源と光変調弾性器を用いた変調法による実験でこの結晶が自然旋光を示すことを確認した。以上の様に、本研究課題はおおむね順調に進展している、
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今後の研究の推進方策 |
今年度作成したピックアップコイルを用いて空間反転対称性が破れた遷移金属錯体化合物[MnIII(taa)]とNiSO4・6H2Oに関する光誘起磁化の観測に臨む。これらの物質の吸収帯にあたる波長1063 nmの赤外光を発振するパルスレーザー光をそれぞれの単結晶試料に照射し、その時生じる誘導機電力をピックアップコイルで観測する。パルスレーザー光の発振周期である80 Hzでこの誘導起電力をロックイン検出する。レーザー光を試料近傍まで光ファイバーを用いて伝達し、その先端にGRIN レンズを取り付けてコイル内に挿入しレンズの先に試料をセットする。冷却により発生磁化は大きくなると考えられるため、ピックアップコイルは4Heクライオスタット内に設置し低温で実験を行う。光誘起磁化の向きの反転が、結晶点群Tdの[MnIII(taa)]の場合、直線偏光の90度回転によって、またキラルなNiSO4・6H2Oでは光路反転によって起こるため、これを観測することで光誘起磁化の発生を検証する、
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費として60万円を計上していたが、本計画以外の科学研究費補助金の課題が採択されたこと、また企業との共同研究費からも旅費の支給が可能であったことから、節約が可能となった。翌年度分と合わせて実験装置の整備のための物品費と研究遂行と成果発表のための旅費として使用する予定である。
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