研究課題/領域番号 |
23K17664
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹内 一将 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50622304)
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研究分担者 |
高三 和晃 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80893768)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | スピン系 / 可積分系 / Kardar-Parisi-Zhang普遍クラス / 量子アクティブマター |
研究実績の概要 |
竹内は、古典可積分スピン鎖における Kardar-Parisi-Zhang (KPZ) スケーリング則の定量的検証に取り組んだ。従来研究で自由パラメータとされていたスケーリング係数をKPZ理論に基づき決定し、定量的かつ多面的なKPZスケーリング則の検証をスピン系で実施した。また、スピン系では自然ながら従来KPZ理論では注目されていなかった定義の相関関数について、KPZ界面成長模型で数値的に測定し、スピン系の結果との普遍性を検証した。さらに、エネルギー流の有無、外部磁場の有無などの諸要素のもとでのKPZスケーリング則の頑健性を調査した。以上の結果は、国際共同研究により、可積分スピン鎖の有効流体模型でも検証を進めている。本成果について、竹内は学会発表を行い、論文を準備中である。また、本成果の量子スピン系での検証に向け、高三は数値シミュレーションの準備を進めている。具体的には、TEBD法による時間発展計算のコードを作成し、シミュレーションの妥当性を検証するためのベンチマークを行っている。 また、高三はこれに加え、本研究同様の「古典・量子系の横断研究」として、量子アクティブマターの研究にも取り組んでいる。鳥や魚、バクテリア等の自ら動く要素の集まりであるアクティブマターは、古典系を中心に研究されてきたが、高三らは最近、これを原子集団等の量子多体系に拡張することを目指している。こうした古典・量子の境界領域を調べることは、本課題推進につながる。高三は、本成果に関して、原著論文を1本公開した他、国際会議招待講演を含む、複数の発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では、スピン系におけるKPZゆらぎを記述する有効流体模型の構築も本課題の一環として取り組む予定であったが、本課題実施前に海外グループによってそのような模型が発表された。そこで計画を変更し、有効流体模型を発表した海外グループと共同研究することによって、スピン系におけるKPZスケーリング則の検証を古典スピン系と有効流体模型の双方で同時に行うこととしたため、通常のKPZ統計法則との共通点や相違点の解明が当初予定よりも大幅に進むこととなった。KPZ厳密解の研究者とも共同研究を行うことで、新規の相関関数の関数形について理論的裏付けを得ることもできた。 また、KPZクラスの適用範囲が近年大きく広がっており、アクティブマターでの例を指摘する報告もあった。これを踏まえ、高三が取り組んでいる量子アクティブマターの研究も、本課題が目標とする「古典系・量子系のKPZ統一的理解」の範疇となる可能性を意識し、研究を展開することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究により、定常状態の古典可積分スピン鎖におけるKPZ統計法則の理解が大きく進んだため、2024年度はまず本成果の完成を目指す。2023年度に高三が準備を進めた量子スピン系の数値計算を2024年度に規模を上げて実施し、同様のKPZ統計法則の成立可否の検証を目指す。さらに、非定常状態のスピン鎖におけるKPZ統計法則の様相解明を目指し、KPZスケーリング則で厳密解研究が進んでいる主要な初期条件について、対応物の検証をスピン系で実施する。以上の研究は、引き続き協力関係にある複数の海外共同研究者と連携し進めてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請書提出後、課題開始前の期間に、有効流体模型に関する論文が他グループから公開された関係で研究計画を調整した。その結果、予算使用の計画にも変更が生じることとなった。次年度使用額は、次年度の研究計画や発表をより充実させるために活用する。
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