研究課題/領域番号 |
23K17685
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
飯田 崇史 筑波大学, 数理物質系, 助教 (40722905)
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研究分担者 |
吉野 将生 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 特任准教授 (30789938)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 無機シンチレータ / 放射線計測 / 波長粒子識別 |
研究実績の概要 |
波長情報を用いた粒子識別技術の開拓を目指している。これまでにMPPCセンサーとEu:LiCaI結晶を用いて、波長による粒子識別の原理検証を行ってきた。本研究の初年度は、波長による粒子識別技術を異なる結晶への応用を検討した。 まず、様々な無機シンチレータ結晶に対し、アルファ線とエックス線を照射しての発光波長スペクトル測定(ラジオルミネッセンス)を行った。Ce:Gd3Ga3Al2O12結晶やEu:LiCaAlF6、そしてEu:CaF2結晶などを測定し、その結果を比較した。この結果、特にEu:CaF2結晶において、照射した放射線の種類と発光波長に明確な差異が確認された。CaF2の場合、Eu2+の発光が波長420nm付近、Eu3+の発光が波長590-700nmの間に複数のピークができる。アルファ線を当てたときとエックス線を当てた時で、明らかにEu3+/Eu2+の発光割合が異なり、アルファ線を照射した場合の方がよりEu3+の割合が高いことが判明した。この結果、放射線の種類の違いによって発光波長に違いが生まれ、波長情報から粒子毎の放射線量が個別に測定ができる可能性が示された。 また、カラーCMOSカメラを購入し、MPPCの代わりに用いるための準備を進めた。実際に10分程度の長時間露光を行うことで、CMOSでEu:CaF2結晶からの発光を確認することに成功した。これらの成果は次年度以降の研究につながるものであり、現在は結果を学術論文としてまとめているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたEu:LiCaI以外でも、様々なシンチレータ結晶に対してラジオルミネッセンスの測定を行った。その結果、Eu:CaF2結晶において、Eu2+/Eu3+という配位の異なる発光中心の発光量比が、アルファ線とエックス線で異なることを突き止めた。これまでに知られていなかった画期的な発見であるとともに、新たな波長情報を用いた放射線粒子識別技術の第一歩を踏み出すことに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
Eu:CaF2結晶にアルファ線とエックス線を照射した際の飛跡をカラーCMOSカメラで撮像する。実現すれば世界初の放射線飛跡カラー撮像となる。そのためにEu濃度を変えたEu:CaF2結晶を複数作製し、ラジオルミネッセンス測定を行うことで実験に適した組成の最適化を行う。加えてCMOSカメラに水冷のオプションを導入し、素子を-40℃に冷却してノイズを限界まで下げた測定を行う。また並行して、Eu:LiCaIやCeBr3等の結晶でもラジオルミネッセンス測定を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、実績のあるEu:LiCaI結晶を用いて検出器の大型化と多チャンネル化を推し進める予定であった。しかし、他の結晶に関してもラジオルミネッセンス測定を行うことで、様々な可能性を検討することを優先した。結果として、Eu:CaF2結晶での新規な結果を得ることが出来たが、実験そのものは小規模または既存の装置で行うことが出来たため、少ない予算で結果を出すことに成功した。
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