研究課題
本研究の目的は、極めて生成量の低い稀少な放射性核(RI)の単一粒子精密分光を目指して、蓄積リングを周回するイオンビームを非破壊的に検出する共鳴ショットキー検出器を開発することである。宇宙元素合成Rプロセスの理解、またそのために必要な不安定核の構造を理解するために、極めて稀少なRIの寿命データが必要とされている。それに伴い一般には大型で高性能な放射線検出器の開発が進んでいるが、1日に数個しか生成できない不安定核に対しては、検出効率やバックグラウンドの制限のため、放出される放射線(ベータ線、ガンマ線)より、崩壊による親核の減少と娘核の増加を測定する方が効率よい。本研究は、核反応で生成される稀少RIをそのまま蓄積リングに貯蔵して、飛行中に崩壊事象を非破壊検出する方法を提案する。2023年度は小型高感度ショットキー検出器の開発を進めた。これまで共鳴空洞は製作していたが、共鳴Q値やシャントインピーダンスなど基本的な性能は未確認であった。そのためネットワークアナライザー及びビード法を用いて基本性能を測定し、設計値とコンシステントであることを確認した。このショットキー検出器の特徴として信号取り出しポートを2箇所用意して切り替えて使用する新しい仕組みを取り入れた。また、空洞を無酸素銅で製作しQ値を向上させることができたため、予想される信号強度がこれまでのものと比べて10倍以上に改善することができた。そして蓄積リングの真空内にインストールした。真空は現在10の-5乗Paレベルで動作に問題はない。2024年度前半にビーム試験をする予定である。ここまでの成果は日本物理学会で発表した。
2: おおむね順調に進展している
小型高感度ショットキー検出器の開発に成功し、2024年度のビーム実験に向けて順調に準備が進んでいる。
2024年度前半に理研RIビームファクトリーにてビーム実験が予定されている。エネルギーが核子あたり約170MeVの124Xeビームを利用する。これまで使われてきたショットキー検出器と同時に測定して、信号ノイズ比の改善を確認する。また、ショットキースペクトルのフレームあたりの測定時間を変化させて信号ノイズ比を測定し、どこまで短寿命の核種が測定対象になるか検証する。これらのデータを用いて、新たな共鳴空洞を設計する。また、ドイツGSI/FAIR研究所との共同研究により、位置感度型ショットキー検出器を導入する。2024年度秋を予定している。これによって、蓄積リングを周回する粒子の軌道を測定することができるため、蓄積リングのビーム診断系として働くだけでなく、周回粒子の運動量を正確に測定することができるようになる。ビーム実験は秋にも計画している。
新規にショットキー検出器を製作する予定であったが、先に既存のものを整備し十分に性能を確認した後に、より高性能な新規ショットキー検出器を製作することにしたため、製作費用を次年度以降に執行する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 8件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
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