研究課題/領域番号 |
23K17687
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鎌田 耕平 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 客員共同研究員 (60835362)
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研究分担者 |
神野 隆介 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任助教 (80786898)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | 粒子生成 / バリオン数生成 / インフレーション宇宙論 / 宇宙論的相転移 |
研究実績の概要 |
2023年度は、鎌田は、まず宇宙論的電弱相転移 (正確にはクロスオーバー) の際に、素粒子標準模型のSU(2)ゲージ相互作用に内在するスファレロン過程と呼ばれる非摂動論的現象が脱結合することによって宇宙にバリオン非対称が生成しうるかを、実時間発展を追う発展方程式を定式化し、評価した。結果、先行研究において考慮されていなかった、作られたバリオン数をかき消す効果を適切に取り入れることにより、最終的なバリオン数は二桁ほど低い値が現実的な予言であることを示した。また、リッチスカラーの自乗項によってインフレーションを起こす模型における右巻きニュートリノの生成を通じた宇宙の再加熱とそれに伴うバリオン数生成評価した。その結果、ヒッグス粒子がリッチスカラーと共形的に結合している場合は、宇宙の再加熱温度やバリオン数が右巻きニュートリノの質量に比較的敏感に依存し、将来の宇宙論的観測でニュートリノの質量等を評価できる可能性があることを示した。重力と物質場が非自明な結合をする重力理論においては、共形変換による理論の不変性が非自明であり、粒子生成等の予言の不変性、妥当性も非自明であったが、共形自由度を新たな自由度とした場の空間の幾何学を考えることにより、その不変性が明らかになることを示し、その応用としてアインシュタインカルタン形式のヒッグスインフレーションの解析を行なった。これらの結果をPRD誌、JCAP誌、JHEP誌、PRL誌 (in press) で論文として発表とすると同時に、JGRG等の研究会で報告した。 神野は、非自明な背景場中の粒子生成に関する研究の一環として、電弱Z-string上のニュートリノのゼロモードを解析し、そのstringの安定性への影響を考察し、日本物理学会第78回年次大会で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鎌田の考察した、スファレロン脱結合によるバリオン数生成は、先行研究においてもっとも重要な課題であった、スファレロン自身によるできたバリオン数をかき消す効果を、物理的にもっともらしい考察により取り入れることに成功し、非常に意味のある結論を得た。しかし、第一原理的な発展方程式の導出には成功しておらず、今後の課題である。 当初の目的である、ブラックホールまわりの真空の相転移の実時間発展の考察は、ホーキング放射とのアナロジーでの解析が有効であるとわかり、現在解析を進めている。新たな示唆を含む新たな結果が得られており、現在詳細を詰めながら論文にまとめているところである。 また、重力的レプトン数生成と呼ばれる、インフレーション中に重力的Chern Pontryagin densityを生成し、カイラル量子以上を通じて宇宙にレプトン数を生成する模型における、分散関係の変化によるレベルクロッシングの考察を進めており、現在論文にまとめている。 神野は、LISA cosmology working groupにおける、宇宙論的一次相転移からの背景重力波をLISAにおける観測手法の開発に参加し、背景重力波のテンプレートの作成等に貢献し、その結果を論文にまとめている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、鎌田は、まず当研究計画の主要課題である、ブラックホール周りの相転移の実時間解析を進める。ホーキング放射のアナロジーによる解析の詳細を詰め、論文の形にまとめる。また、重力的レプトン数生成におけるレベルクロッシングに関する研究も論文として発表する。 これまでの研究においては、相転移の解析は薄壁近似をもとに行ってきたが、薄壁近似の成り立たない場合の解析手法を模索する。宇宙ひも上に磁気単極子が対生成し宇宙ヒモがちぎれる確率において、薄壁近似を超えた解析がなされたが、それの応用を想定する。
神野は、一次相転移の進行時に引き起こされる流体のダイナミクスが重力場に与える影響について研究する。同時に、流体が発達させる衝撃波の宇宙論的帰結についても研究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度途中に中国浙江省杭州市を主とする居住所に変更することとなり、その移動のため、予定していたアメリカでの国際研究会への参加ができなくなったため、その予算40万円程度を次年度使用額とすることとした。2024年度は当初予定以上にヨーロッパへの研究会への参加が増える見込みであるため、そちらの参加に関する経費として使用する。
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