研究課題/領域番号 |
23K17688
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新田 龍海 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 特任助教 (60962371)
|
研究分担者 |
福山 寛 東京大学, 低温科学研究センター, 特任教授 (00181298)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
|
キーワード | アクシオン / 断熱消磁 / 暗黒物質 / 量子 / サブミリケルビン |
研究実績の概要 |
当該年度はまず、東京大学武田先端知スーパークリーンルーム、沖縄科学技術大学院大学の共用クリーンルーム、及びスイス・ローザンヌ工科大学CMiにて、量子ビットや量子アンプの基礎開発を進めた(4件の学会発表済み)。本研究の要である量子アンプはジョセフソン接合から成り、作製には数多くの電気回路及びファブリケーションのパラメータを決定する必要がある。各クリーンルームではそれぞれのパラメータの条件出しをおこない、一定の性能のジョセフソン接合を作製するプロセスを確立した。この成果は量子アンプの性能に直結する。また、市販の量子アンプの購入及び協力研究者からの借用により、量子アンプを比較することが可能な状況が整った。 冷却の要である連続核断熱消磁冷凍機に関しては、東京大学低温科学研究センターの極低温量子プラットフォームにおいて最終的なR&D及び性能評価をおこなった。申請時には冷却性能は確約されていない状態であったが、本年度のテストにおいて十分な冷凍性能と安定性があることを確認した(学会発表済み)。並行して同プラットフォームにおいて、量子ビットやその他の読み出し機構の開発もおこなった。任意波形発生装置、信号発生装置、ベクターネットワークアナライザ、スペクトラムアナライザ、及びクロックなど、多くの装置を統合して制御するシステムを構築した。また、本研究のタイプのアクシオン探索に必要不可欠である共振空洞の開発にも進展があった。研究初期には方形型の共振空洞を作製していたが、空洞の隙間をなくすことが構造上困難であったため、同軸型と呼ばれる共振空洞の開発も並行しておこない、Q値が従来と比べ100倍近く向上することを確かめた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジョセフソン接合の作製技術の習得、連続核断熱消磁冷凍機の運用実績、測定系の構築、及び共振空洞の開発を通して、実際にアクシオン探索のセットアップを断熱消磁冷凍機と接続するための素地は整ったと考えている。したがって実際に本研究を遂行する実験環境は整いつつあり、現状で研究はおおむね順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に整えた研究環境を使用して、実際のアクシオン探索手法を用いた際のノイズレベルの確認をおこなう。ノイズ量の確認には超伝導量子ビットを利用する。超伝導量子ビットは黒体放射によって熱励起を起こすが、この反応レートから実温度の測定が可能となる。超伝導量子ビットを構成するシリコンまたはサファイア基板は量子アンプにも共通して使用されており、この実温度の測定は量子アンプのノイズ測定に直結する。よく知られた事実として超伝導量子ビットは、通常測定に使用する希釈冷凍機の温度である10 mKより高い50 mK程度の実温度を持つことが知られており、熱化が原因の一つと考えられている。まず、この実温度が希釈冷凍機の使用によって減少するかを検証するが、低温でのシリコンやサファイアの熱伝導率の悪化により十分に熱化しないことが予想される。そこで液体ヘリウム等を利用した積極的な熱化をテストする。これらの研究内容は学会や論文発表にまとめ、サブミリケルビンでのアクシオン探索の可能性をコミュニティに共有する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
購入を計画していた白金NMR温度計製作費はすでにあるものを転用できたことで購入しなかった。低温用RF測定機材一式も想定より価格が安かったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は低温用RF測定機材一式に追加し使用する。
|