研究課題/領域番号 |
23K17702
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥地 拓生 京都大学, 複合原子力科学研究所, 教授 (40303599)
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研究分担者 |
犬伏 雄一 公益財団法人高輝度光科学研究センター, XFEL利用研究推進室, 主幹研究員 (40506250)
富岡 尚敬 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(高知コア研究所), 主任研究員 (30335418)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | X線吸収分光 / 衝撃圧縮 / 非晶質系物質 |
研究実績の概要 |
高温超高圧条件の下にある非晶質系物質の局所構造解析を行う手段を得るために、衝撃圧縮その場でのX線吸収分光に挑戦する。ハイパワーレーザーを使った時間分解型の衝撃圧縮実験は、超高圧力の条件を試料物質に瞬時に作り出しつつ、その加熱も併せて実現できる手法である。この方法には圧力容器が原理的に不要という特徴もある。そのために時間分解計測を行うプローブ光が容器を通過する際の吸収や散乱の問題がなく、多様な計測と組み合わせた実験が可能となる。この利点を活かし、本研究課題においてはフェムト秒準単色のX線パルスを利用した吸収分光計測を試みる。 この新しい計測技術の開発を最も意義のある形で実現するために、利用可能なX線パルスの光学的な特徴を考慮した上で、乱れた構造を有するゲルマニウム化合物の系の計測を最初に実現することを着想した。この系は地球惑星物質の主成分であるケイ素の系のアナログとして、高圧挙動を理解するために重点的に研究されてきた。ゲルマニウムとケイ素は価電子の配置に類似性を持つが、前者は後者よりも低い圧力で配位数が増える方向の相転移が引き起こされる。 実験はX線自由電子レーザー施設・SACLAにおいて行い、時間分解X線吸収分光の計測データを実際に取得することに成功した。多数を準備した試料薄片に対し、ハイパワーレーザーの照射を繰り返しつつ、X線パルスの照射タイミングを次第にずらしてゆくことでゲルマニウム原子の吸収端近傍スペクトルの時間進展を捉えることができた。X線吸収分光が局所構造に特に敏感である利点を活かし、得られた結果の解析を通して、衝撃圧縮によって配位数が増加した結晶および非晶質系の原子配置の理解を進めてゆきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SACLAにおいて衝撃圧縮状態その場でのX線吸収分光スペクトルを実際に計測することに既に成功した。X線パルスの照射タイミングを次第にずらしてゆくことで、吸収端近傍のスペクトルの時間進展を捉えることにも成功している。よって研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
同一の形状を有する多数の試料薄片に対し、同一の条件においてハイパワーレーザーの照射を繰り返すことにより、計測データの積算を行うことが可能になり、得られる吸収スペクトルの信号雑音比を大きく改善することができる。今後は試料薄片の加工後の形状の精度を向上させるとともに、その数量を確保することで、この繰り返しの回数を増加させる。また、飛翔体を用いる試料回収型の実験によって衝撃圧縮された試料を既に合成しているので、そのX線吸収スペクトルを精密に計測することで参照のための結果を得て、ハイパワーレーザーによる衝撃圧縮その場の状態との比較を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)次年度以降の実験の準備作業のために必要な物品や装置の検討を充分に行うため。 (使用計画)これまでに行った実験の結果から得られた知見をもとに、実験のデザインを改めて検討した上で、試料の準備や加工の手順を改良する。高品質の出発試料物質の合成のために最も適した静的な温度圧力条件を利用できる環境を整備する。さらに、実験に適した試料薄片の形状や数量を得るための計測の環境を整備する。以上の目標を踏まえた上で、研究課題の達成に向けて効率的に予算の残額を使用する。
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