研究課題
小天体の表層・内部構造の制約を目的とした測地学研究について、2023年度は主に以下3つの成果を上げた。(1)電波や測距計を用いる従来の重力推定ではなく、画像にうつる対象天体の特徴点情報のみから天体の重力定数を推定するアルゴリズムを確立した。この手法を適用することで、はやぶさ2に搭載された分離カメラの画像を用いて、分離カメラ自身の軌道を推定することで、リュウグウの重力定数を10%精度で推定できた。(2)はやぶさ2がリュウグウで実施した人工クレーター形成実験について、分離カメラにより観測された衝突イジェクタの軌道推定を進めた。(1)で推定した分離カメラの位置情報を用い、さらには軌道モデルの非線形性や速度スケーリング則を利用することで、2次元の画像情報から、放出粒子の3次元的な軌道を決定した。今後は、スケーリングパラメータの詳細な評価を行い、それに基づいて天体表層構造に関する示唆を得ることを目指す。(3)(1)の成果により、画像情報のみでも有効な測地学的情報を抽出しうることが分かった。より高精度な測地パラメーター推定のためには、小天体の不規則形状を正確に復元し、天体に対する物体の位置を精度よく決定する必要がある。そこで、火星衛星探査計画MMXを題材にして、stereophotoclinometry (SPC) 法によるフォボスの形状モデリングについて解析を行った。特に、限られた観測機会・データサイズで高精度の形状モデルを生成するための光学観測方法を検証した。これにより、太陽-火星-フォボス-探査機間のジオメトリを考慮しつつ、最適な撮像タイミングや指向条件を決定するための指針を得た。
2: おおむね順調に進展している
2023年度は、主に画像解析を中心として小天体測地学の研究を進めた。特に分離カメラの軌道情報を利用した重力推定については、当初の計画通りに研究を遂行できた。また、画像情報を用いた重力推定に際して、天体形状モデルの高精度化が重要であることが分かったので、付加的な課題として光学観測の最適化について研究した。一部予定を変更しつつも、新たな研究成果も創出できたので、研究の進捗状況は順調である。
第一に、2023年度に開始した衝突イジェクタの軌道推定の研究を継続して行う。特に、はやぶさ2のリュウグウ観測データを用いて、衝突に関する物理パラメーターを制約することで、リュウグウ表層構造に関する示唆を得る。本トピックは、物体の軌道と天体の重力場を同時推定する意味での旧来の測地学と、衝突現象の物理学とを融合した研究課題である。第二に、2023年度に確立した形状モデリングのための観測計画を基に、フォボスの模擬画像を用いて、SPC法によりフォボスの形状モデル生成の実験を行う。この実験を通じて、光学観測の条件が地形の復元現度に与える影響について評価する。また、この研究課題を通じて得た指針は、2027年にフォボスを探査する予定のMMXミッションにおける測地学的な成果向上に活用する。第三に、探査機から分離した人工物の軌道運動を探査機が追跡することで、小天体の重力場を決定する手法について研究を行う。従前の研究では、人工物を真下に直線的に投下するケースでの重力推定を実施しているが、天体を周回するようなケースでは測地学的手法が十分に確立していない。本研究では、この新たな小天体重力場の推定方法を確立するとともに、実ミッションへの適用性を探る。
年度末近くの2024年2月に発注した、論文の英文校正が想定よりやや安かったため、13,811円の余剰が発生した。次年度は、主に投稿論文のオープンアクセス費用および成果発表のための学会旅費に助成金を使用予定である。
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