研究課題/領域番号 |
23K17717
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 伸太郎 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (50377826)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | ポリマーブラシ / 水和ポリマー / マイクロTAS |
研究実績の概要 |
本研究では,水和ポリマーブラシ膜をパターニングして,ナノ厚さのゲル薄膜の流路(ナノゲル流路)を実現し,ナノ空間反応場として利用して高速かつ高精度なバイオ分析を実現する新しいマイクロTASのプラットフォーム確立を目指すものである.今年度はその基盤的な技術となるポリマーブラシ膜のパターニング法を検討した.ポリマーブラシ膜の成膜には表面開始グラフト重合を用いた.具体的には,シリコンウェハ表面にパリレン薄膜を成膜し,光重合開始剤を塗布した.モノマーとして2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)を用いた.MPC水溶液を滴下して紫外線を一定時間照射すると,パリレン表面を起点として重合が進む.照射時間やモノマーを調整することによってグラフト鎖の長さを調整できる.パターニングを実現するために,紫外線を照射する際にフォトマスクを用いて部分的に重合させる方法を検討した.しかし基板とフォトマスクを近接させる距離に限界があり,高精度なパターニングが困難であった.そこでパリレン薄膜をフォトリソグラフィによりパターニングしてからグラフト重合を実施した.パリレン薄膜が存在する部分のみにグラフト鎖が合成され,パターニングされたブラシ膜を形成することに成功した.ブラシ膜の両端に電極を配置し,ブラシ膜表面においてDNA試料の電気泳動を試みた.その結果,DNAが伸縮しながら泳動する様子が確認できた.溶液中におけるDNA分子はランダムコイル形状が最も安定であるため,伸長したことはDNA分子がブラシ膜と相互作用しながら泳動したことを意味する.また泳動の速度はブラシ膜がない場合に比べ数分の一に低下した.これらの結果からブラシ膜が分子ふるいとして機能しうることが確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
水和ポリマーブラシ膜のパターニング法について当初計画の方法では精度に問題があったが,代替の手段を着想して目標よりも高い精度を達成することに成功した.またブラシ膜表面でのDNAの電気泳動に成功し,泳動速度がブラシ鎖長さに依存することを明らかにした.このような現象これまでに報告例が無く,デバイス設計や新奇な機能発現に活用できる可能性がある.
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今後の研究の推進方策 |
デバイスの基本的機能として,ミキシング,スイッチング,フィルタリングの実現を目指している.これら機能性を発現するパターニング形状を設計し,実現可能性を実験的に検証する.同時にブラシ膜の膜厚や密度を制御した成膜条件の最適化を試みる.DNAの電気泳動の場合,電圧印加開始から30分後までは概ね一定の泳動速度を維持することに成功したが,その後に急減することが明らかになった.原因としては,水の蒸発が考えられる.本デバイスは電極基板とブラシ膜を成膜した基板を貼り合わせただけの構造をしており,完全に密閉された流路構造ではない.そのため基板間の隙間から水が蒸発しうる.水が蒸発したことによる気泡の混入や,基板間距離の狭小化によって,DNA分子にかかる摩擦抵抗が増大したことが速度低下を引き起こした可能性がある.今後は密閉性を高めるデバイス構造について検討する.
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