研究課題/領域番号 |
23K17731
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 光太郎 工学院大学, 工学部, 教授 (80252625)
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研究分担者 |
横田 和彦 青山学院大学, 理工学部, 教授 (70260635)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | 気泡 / シンセティックジェット / 方向制御 |
研究実績の概要 |
極めて純度の高い液体や危険な汚染水などの流れを制御するために,新たな流体機械を設置するには大きなリスクを伴ってしまう.あるいは生体内の液体を移送するために外科的措置を行うことは,患者の負担を考えると避ける方が好ましい.このような場面における流体制御に,非接触エネルギー供給により生成される噴流(シンセティックジェット)は有効である.「密閉容器内で流れを生成し,容器を動かすことなく,自由に流れを制御する」ことが本研究の最終目的である.シンセティックジェットは噴出・吸引を繰り返すことで正味の流量はゼロであるにも関わらず下流にはエントレインメントにより実質流量を伴う噴流が形成される現象であり,本課題では振動現象により噴流構造の流れ(運動量を伴う流れ)を生成するシンセティックジェットの原理を用いて流れ場の制御を試みる.本課題では研究期間を通して,1) レーザーや超音波,放電などを用いて生成された気泡の非球状運動に基づく渦生成と,2) 周波数や非対称性を利用した渦配列の制御,の2つの項目について取り組んでいる.研究初年度である2023年度に得られた研究実績は以下の通りである. 1) レーザーや超音波,放電などを用いて生成された気泡の非球状運動に基づく渦生成に関する研究成果については,国際会議において1件の成果発表がなされたとともに査読付論文1編が学術論文誌に掲載された. 2) 周波数や非対称性を利用した渦配列の制御(定常連続噴流の方向制御に関する研究を含む)に関する研究成果については,国際会議において6件の成果発表がなされたとともに査読付論文3編が学術論文誌に掲載された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度である2023年度には,振動流れ生成に関する基礎的研究として,気泡の非線形振動および気泡干渉でのジェット形成についての解明が試みられた.実験的並びに理論的研究が実行され,主に2つのキャビテーション気泡の相互干渉による運動とマイクロジェットについて調査された.学術雑誌に掲載された研究内容は,気泡の運動に及ぼす生成時間差の影響と先行気泡に発生するマイクロジェットの特性についてである.実験的研究では,水中にレーザーを照射することで2つのキャビテーション気泡が生成され,それらの挙動は高速カメラで撮影,可視化観察がなされた.理論的研究として,境界要素法とVOF法を用いた数値解析により気泡の運動とマイクロジェットに関して調査された.主な結果として,無次元気泡間距離,気泡サイズ比が一定の条件下で無次元気泡生成時間差をパラメーターとした実験,境界要素法およびVOF法の結果が比較・検討された.実験と数値解析は概ね良好な一致を示すことがわかり,先行気泡に発生するマイクロジェットの向きは気泡生成時間差によって他気泡側,くびれ形成気泡分離型,反他気泡側に分類されることが明らかとなった. 一方,噴流に関する研究では,シンセティックジェットの偏向特性の解明などが試みられ,なかでもステップ形状非対称スロットで生成されるシンセティックジェットの再循環領域のサイズ,発生条件や形成メカニズムなどについて実験的調査が実施された.ここでは,ステップ形状非対称スロットでは噴流の偏向度は無次元ステップ長さと無次元振動数により決定されること,シンセティックジェットの偏向度が最大となる無次元ステップ長さ条件が存在すること,幾何学的に相似ではない条件においても,シンセティックジェットのストローク長さを代表長さとして整理することで,ある程度の相似則が成立することなどが明らかにされた.
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今後の研究の推進方策 |
前述の通り主な課題は,1) レーザーや超音波,放電などを用いて生成された気泡の非球状運動に基づく渦生成と,2) 周波数や非対称性を利用した渦配列の制御の2つであり,2年目も前年度同様,1)と2)を同時並行で取り組む予定である. 1) については,形成される流れの運動量評価が大きな課題になると考えられる.古くから気泡の運動は軸対称二次元ポテンシャル流れの湧き出しと吸い込みで表現されていることからも明らかなように,マクロ的には方向性を有する運動量を伴う流れとして取り扱われることはあまりなかった.一方,局所的にはマイクロジェット形成のような噴流衝突と材料表面のエロージョンとの関係が長い間議論されてきた.次年度以降,本研究では気泡の非球状運動とマクロ的に方向性を有する流れ場との関連について研究を展開する予定である. 2) について,次年度も引き続き,噴流の方向制御に関する研究を掘り下げて進める予定である.連続噴流では速度せん断層を分布渦と解釈でき,下流では渦の巻き上がりが発生する.一方,シンセティックジェットの場合,速度せん断層は離散渦で表現されていると解釈でき,渦列が形成されることで,エントレインメントによる実質流量を伴う噴流構造が生成される.二年目以降はこのことに着目し,スロットの非対称性や周波数を利用して渦配列を調整することで,噴流干渉などを含み広い範囲での流れ場の制御を試みる予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2023年度実施した可視化実験において光量不足が認められたことから,2024年度に当初予定に無かった追加のレーザー購入が必要になったため.
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