研究課題
あらゆる電子デバイスは、材料の内部に何らかの欠陥が入ることにより、経時性能劣化が生じる。これに対し、本研究では、点欠陥と空孔からなる超秩序構造を化合物半導体(GaAsPN:ガリウムひ素リン窒素)中に導入することにより、放射線や熱が加わる環境下で経時的に発電効率が向上する特異性能をもった受光デバイスの開発に挑戦している。GaAsPNの結晶成長後には、結晶中に点欠陥(窒素が対になった状態)が意図せず形成される。陽子線照射や電子線照射などにより、この点欠陥の近傍に、空孔が形成される。ここに、室温~数100度の範囲で熱エネルギーが加わると点欠陥(窒素対)が分離する可能性が高いと予測した。本年度はその原理を実験的に明らかにするために、共同研究を通して6MeVの電子線照射時の光学特性の変化を調べた。具体的には電子線照射の有無のあるGaAsPNサンプルを用意し、様々な温度で熱処理を行い、フォトルミネッセンス測定によって光学特性を評価した。フォトルミネッセンスの温度特性および励起光強度依存性の結果を総合すると、電子線照射の場合には、陽子線とは対照的に比較的低い温度でN-N対の分離と考えられる現象が生じ、発光強度が改善することが明らかになった。また、この時X線回折から評価した構造特性は、組成や界面の平坦性も含めまったく変化がないことも明らかになった。これらの結果は、同結晶で作製したpn接合型太陽電池にみられる特異な放射線耐性や第一原理計算から予測した窒素対の消滅仮定を支持するものとなった。得られた結果は、学術論文として出版した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、上記の目的に対してGaAsPN結晶中の窒素原子起因の点欠陥と空孔を含む超秩序構造の観測・解明・制御に取り組んでいる。本年度は、共同研究を通してこれまでに予測してきた物理現象を支持する結果を得て、論文発表することができた。また産業応用に向け特許の申請も行った。
母材となるGaAsPNの高品質化にアンチモンサーファクタントが有効である兆候が見られているため、Sb添加GaAsPNの特性を調べていく。また、混晶半導体への放射線照射時に発生する空孔型欠陥と格子間原子に対してそれらの距離と混晶組成の関係を明らかにする事で放射線耐性に関する知見を深めていく。
結晶表面評価用のRHEEDを購入予定であったが納期の問題があり、次年度に繰り越した。
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Optical Materials
巻: 149 ページ: 115075~115075
10.1016/j.optmat.2024.115075