研究課題/領域番号 |
23K17768
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
浅本 晋吾 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (50436333)
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研究分担者 |
高橋 恵輔 香川大学, イノベーションデザイン研究所, 特命教授 (00972126)
岡崎 慎一郎 香川大学, 創造工学部, 准教授 (30510507)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 高濃度塩化物イオン / 腐食抑制 / 混和材 / 海水 / 海砂 |
研究実績の概要 |
令和5年度は,埼玉大学では,人工海水に塩分を濃度20%まで添加した練り混ぜ水を用いて作製したモルタルの強度,収縮特性の検討を行った.圧縮強度については,水道水に塩分を添加した場合に比べ,人工海水を用いた場合は塩分の添加とともに強度が大きく低下し,濃度20%では,海水の3%濃度の練り混ぜ水を使ったときの強度に比べ,半分以下まで強度が低下した.さらには,海水練りコンクリートで強度増進が報告されている高炉スラグ微粉末を混和した場合でも,強度増進は見られなかった.マグネシウムや硫酸イオンなど海水に含まれる成分と高濃度塩分の組み合わせが,水和反応の阻害,空隙構造の粗大化をもたらした可能性があり,これらについての検討を令和6年度で実施する.収縮については,これまでの検討と同様に,濃度20%まで塩分を添加すると,湿度60%の乾燥では,周辺の蒸気を吸収し収縮が抑制され,特に,スラグを混和すると,濃度20%で収縮が大きく抑制されたが,上記のように水和が進行しておらず,収縮に起因するC-S-H水和物が十分に析出していないために見かけ上収縮が抑制された可能性もあり,詳細な検討を今後行う. 香川大学では,腐食促進のため数mmのかぶり厚で鋼材を配置し,高濃度塩分を添加させた水道水で練り混ぜたモルタル供試体を用いて,腐食進行を乾湿繰り返し試験によって検討した.その結果,塩分濃度が高いほど鋼材腐食が進行し,塩分濃度が高いほど腐食が抑制される電食による腐食促進実験とは異なる結果になった.これは,塩水に常に浸漬されている電食実験では供試体内の塩分濃度が高いと溶存酸素濃度が低下し腐食が抑制されたが,乾湿繰り返し条件に曝されると,高い塩分濃度でもかぶり厚が薄く乾燥時に酸素が十分に供給され,腐食が進行するためだと考察された.今後は,腐食まで時間がかかるかもしれないが,一般的な数cmのかぶり厚での検討も視野に入れる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実環境での状況を模擬して,まずは室内で乾湿繰り返し条件下での腐食実験を行った.その結果,かぶり厚が小さいと,高濃度塩分含有による腐食抑制効果が十分に確認できない可能性がわかり,実環境での長期実験を行う上で配慮すべき実験条件を事前に把握することができた.また,人工海水の利用,さらには,高炉スラグ微粉末を添加した場合の力学的特性について,1年目から事前検討を行い,マクロな物性は概ね評価できたので,2年目は,申請書に記載した通り,高濃度塩分,海水,高炉スラグ微粉末の組み合わせによる水和物や空隙などのキャラクターについて検討し,マクロな物性との関連を検討する.当初期待していた高濃度塩分による腐食抑制やスラグ混和による力学的性能向上は現状確認できていないものの,研究自体は計画していた通り概ね進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度では,人工海水に塩分を大量添加したときの強度低下メカニズムの検討のため,生成される水和物分析,さらには,空隙構造について水銀圧入法とガス吸着法の両面で検討を行う.また,水和物,空隙構造に基づいた収縮特性,塩化物イオンの拡散特性についての検討も行う.塩化物イオンについては,内部から表層に逆拡散する現象となり,固体表面に物理的,科学的に吸着した塩化物イオンの脱離に着目した検討を行う.高炉スラグ微粉末を用いたときも同様に,水和物,空隙構造分析,それらに伴う強度,収縮,塩分拡散特性について検討を行う. さらには,水道水に塩分を添加させた練り混ぜ水による事前検討と同様に,人工海水に塩分を添加した練り混ぜ水を用い,電食による腐食促進実験を行い,海水成分が腐食進行に与える影響について検討を行う.令和5年度で得られた知見と人工海水を用いたときの腐食進行の結果をもとに,高濃度塩分を含有した鉄筋コンクリートの実環境下での腐食検討に関する長期実験も開始し,本研究課題終了後も継続的に腐食進行を計測する.
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