研究課題/領域番号 |
23K17786
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
西嶋 一欽 京都大学, 防災研究所, 准教授 (80721969)
|
研究分担者 |
栗田 剛 東急建設株式会社(技術研究所), 温熱・風グループ, 主任研究員 (20737259)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
|
キーワード | PTV / 実測 / 雨滴 / 粒径 / 風速 |
研究実績の概要 |
本研究は、降雨時の雨滴の粒径および軌跡を光学的手法でトラッキングし、その運動を解析し雨滴に作用する風力を逆算することで風速を計測するという新たな手法を確立するものである。この手法が確立すれば、空間上の1点での風速のみが測定可能な三杯風速計や超音波風速計などの従来型の風速計とは異なり、複数台のカメラと光源を用意するだけで、ライトシートが照射されているボリューム全体の風速場を計測でき、建築物周りの風速場の3次元乱流構造を直接的に解析することが可能になる。本年度は、上記手法の確立に資する以下の課題を実施した。 (1)撮影システムの最適化:雨滴を光学的手法でトラッキングし、雨滴の粒径および軌跡を計測するため手段を構築した。具体的には、移動速度10m/s程度、地上5m~10mの範囲の雨滴を想定し、雨滴を撮影するカメラの迎角、雨滴に照射する光源強度と向き、撮影のフレームレートおよび露光時間についての適切な条件を明らかにした。また、上空に位置する雨滴の3次元空間位置および移動速度をPTV(Particle Tracking Velocimetry)技術を用いて推定する際に必要になるカメラパラメータを推定する手法も確立した。 (2)実測に向けた撮影・風速推定手法の最適化:手法の最適化を行うために、上記の撮影システムを有風時の雨滴の落下を再現できる人工気象室内に設置し、雨滴を撮影する実験を行った。(1)およびこれらの実験により、屋外で雨滴を撮影する際の撮影条件を明らかにした。また、雨滴撮影時に同時に超音波風速計およびディストロメータによって風速および雨滴粒径も計測したことで、本手法の妥当性を検証するためのデータを取得した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で構築を目指す風速推定手法には、課題1:撮影システムの最適化、課題2:雨滴の風力係数ベクトルと代表面積の評価、課題3:実測に向けた撮影・風速推定手法の最適化、課題4:屋外での実測によるシステムの実用性の検証、を遂行する必要がある。 今年度は、このうち、課題1については当初計画の通り完了した。課題2については、当初予定していた風洞実験装置が改修のため使用できなかったことから、自身の既往研究に基づいて理論的に検討するとともに、人工気象室にてデータを取得した。課題3については、風速推定手法の最適化の検討に資する実験データを取得できたので、本年度の目標はクリアできたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
人工気象室での実験で得られたデータに基づいて、課題2(雨滴の風力係数ベクトルと代表面積の評価)および課題3(屋外での実測によるシステムの実用性の検証)を継続する。具体的には、ディストロメータで記録された粒径分布と撮影画像上の輝度情報を解析することで、輝度と粒径の関係を明らかにし、輝度から粒径を推定する方法を検討する。つぎに、PTVにより推定された雨滴の移動速度と超音波風速計で記録された風速との相関を粒径ごとに分析し、雨滴の移動速度と風速との相関が高い粒径を明らかにする。並行して、運動方程式により理論的に予想される軌跡との一致・相違を分析し、一致・相違の要因を明らかし改善することで、雨滴の移動速度から風速を推定する手法を最適化する。 また、課題4(屋外での実測によるシステムの実用性の検証)を開始する。屋外での実測は京都大学宇治キャンパス内を想定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
・撮影システムの構築を段階的に行ったところ、撮影システムの屋外での使用に関する防水や不陸対応などの治具の製作や光源の選定および防水処理などについては、人工気象室での実験後に検討することにした。その結果、今年度中に購入・納品できなかった。 ・当初予定していたよりも出張に要する旅費が少なく済んだ。 以上により、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、屋外での撮影システムの治具の構築、撮影システム及び計測手法の改善、屋外での実測のための費用に充当する。
|