研究課題/領域番号 |
23K17805
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
森島 邦博 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (30377915)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 宇宙線 / 樹木診断 / ミューオン / 原子核乾板 / イメージング |
研究実績の概要 |
倒木事故を未然に防ぐためには、樹木内部に生じた空洞をいち早く検知して対策を施すことが不可欠であり、通常、樹木医などがこのような業務を行っている。既存の技術では、打音検査、音波検査、ガンマ線診断などが用いられるが、樹木を傷付けてしまう事や大木での診断が難しいことなどが課題である。 本研究では、物質に対して高い透過力を持つ宇宙線ミューオンを利用したイメージング技術(宇宙線イメージング)により完全非破壊で樹木の内部を一度に可視化する革新的な樹木内部診断技術の開発を進めた。 3本の異なる直径(50cm, 1m, 3m)の樹木(生木)を対象に、周囲に原子核乾板検出器を設置して、樹木を透過する宇宙線を計測した。検出した宇宙線ミューオンの飛跡を自動飛跡読み取り装置(HTS)で読み出し、宇宙線の飛来方向分布を測定した。検出器と樹木の位置関係および樹木の形状を把握するために、LiDARを用いて三次元モデルを構築した。三次元モデルを用いたシミュレーションと測定結果を比較することで、三次元モデル中の検出器の位置、傾きなどを推定する手法を開発した。また、原子核乾板の改良(臭化銀結晶の大粒子化)を行い、宇宙線の検出効率を大幅に向上した。これらの技術開発により、観測した樹木内部を解析した。その結果、直径3mの樹木では、樹木の周囲に設置した4つの検出器のすべての観測結果において、生木中に空洞を検知した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
異なる直径の樹木に対して宇宙線イメージングを行い、解析まで進めることができた。直径3mの樹木では、複数の方向からの計測により、その内部に直径2m程度の空洞が存在していることの検知に加えて、その分布形状についても把握可能なデータが得られた。これらの結果は、樹木診断における初の成果であり、新技術に繋がるものである。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に計測した宇宙線イメージの解析をさらに進めることで、樹木に対する原子核乾板検出器の設置位置と設置方法、シミュレーション手法、データ解析手法の統合的な技術体系を構築する。また、対象とする樹木の形状から計測条件を導出する手法を開発し、任意の樹木に対する適用条件をまとめる。さらに、直径3mの樹木に対して複数の位置から得られた結果から、空洞の分布を決定し、既存技術との比較を行うことで、宇宙線イメージング技術の優位性を検証する。これらの開発により、革新的な樹木内部診断法の基盤を構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
宇宙線イメージングで計測した樹木を既存技術で計測することを計画していたが、冬季の計測が困難となったため、次年度に行うこととした。
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