研究課題/領域番号 |
23K17808
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
市坪 哲 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (40324826)
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研究分担者 |
谷村 洋 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70804087)
青柳 登 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (80446400)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 光相変化 / 超高速相転移 / 結晶-結晶相転移 / レーザー誘起 |
研究実績の概要 |
現在,代表的な情報記録デバイスとして挙げられるDVDやBlu-ray Discの記録面には,Ge2Sb2Te5 (GST)に代表される「相変化材料」が用いられている.相変化材料は熱力学的安定相である結晶相に対してナノ秒(ns)レーザー照射による加熱を行うことにより,準安定相であるアモルファス相間との可逆的な相制御を行うことが可能である.相変化材料の両相間の光学的物性には大きな差異が存在することが特徴であり(結晶相:高反射率,アモルファス相:低反射率),反射率の差異をデジタル情報に対応させて情報の記録を行っている.相変化材料の物性の相依存性は,結晶相のみに存在する共鳴結合と呼ばれる特異な結合に由来している.アモルファス相ではこの結合を形成することができず,各原子は最近接原子と共有結合を形成する. 一方で結晶相のアモルファス化には高強度の光照射が要求されるため,より省エネルギー・高速での情報記録を目指し,アモルファス化に依らず,物性変化を伴う結晶-結晶相転移を利用する結晶性相変化材料に注目が集まっている. 本研究では結晶性相変化材料の作動機構として,絶縁体-金属転移を誘起しうるPeierls転移に着目し,主にカルコゲナイド化合物を対象としてフェムト秒レーザー照射による超高速光応答・光誘起相転移挙動の有無の観測を行った.本年度はSnSeの単結晶を対象として時間分解分光測定を行い,超高速光応答を観測した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はモノカルコゲナイド系化合物の代表としてSnSeを対象とした研究に注力した.SnSeはバンドギャップ1.1eVの低温相とバンドギャップ0.4eVの高温相の間で相転移を示し,組成の単純さから実用的な結晶性相変化材料として有力な候補である.一方で,SnSeの超高速光応答に関しては先行研究が存在するものの,弱い光照射によって相転移を観測したと報告する研究と,それよりも強い励起を行っても相転移は観測されなかったとする研究が混在しており,どちらの見解が正しいかを明確にすることは必要不可欠である. 本研究の測定にはSnSeの単結晶試料を用い,分光エリプソメトリーを用いて光学特性を評価したうえで,時間分解分光測定を行い励起後の光応答の観測を行った.特に,吸収係数の大きい400nmの光をポンプ光として用い,強励起条件での光応答の観測を行った.観測された反射率変化にはコヒーレントフォノンに由来する振動が観測され,振動数の解析により相の同定が可能になったと考えている.特性周波数解析の結果,低温相を特徴づける振動数のみが観測され,高温相に由来する振動は観測されなかった.また,SnSeのポンプ・プローブ実験における反射率変化の経時変化測定において,各々のプローブ波長ごとに偏光依存性が顕著にみられることが明らかとなった.具体的には,励起直後に等方的な反射率変化を示したものが,励起後数ピコ秒において異方的に変化する場合がある一方で,逆に異方的であったものが等方的になる場合もあることが判明した.この結果より,これまでの研究論文でなされていた光励起後の反射率の異方性に基づく結晶対称性の変化の議論は,結論として難しいことが判明した.すなわち,SnSeは文献で報告されているように容易な相転移を示すことなく,低温相は光励起に対して比較的安定であることが明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
2023年度はSnSeを主な測定対象として研究を行った.ポンプ・プローブにおける反射率の変化は4%程度もあり,これは,一般の変化に比べて小さくはないので,相変化材料としては期待できる物性変化と言える.しかし,相転移を報告した過去の研究と同様の条件での測定を行ったにも関わらず,結果として明確な相転移は観測されず,SnSeの結晶構造は光励起に対して安定であることが明らかになった.このように,低温相がかなり安定であるので,光励起による高温相への相転移への期待は薄いと判断した.とはいえ,物性変化を纏める意味でも,2024年度には引き続きSnSeに対して,(相転移温度が800Kであることから)試料温度をより高温(2023年度はコヒーレントフォノン観測のために低温78Kにて計測)にセットする方策をとることや,励起ポンプ光の波長やフルーエンス等の条件を変更し,光誘起相転移の有無を確定させる予定である.また,SnSeと同一結晶構造を有し,同じくPeierls転移によりバンドギャップが大きく変化することで知られているSnSを測定対象として,光学特性や超高速光応答に関する研究を行い,優れた結晶性相変化材料としての応用を目指す. また,本年度においては,カルコゲナイドとは異なるものの,同様にパイエルス歪を有すると考えられている酸化物NbO2(および第3元素添加化合物)において,結晶-結晶光励起相転移が起こりえる可能性があるので,その相転移温度の添加元素依存性を明らかにした上で,光励起相転移の可能性について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題では,試料への誘導放出に伴う円偏光発光分光システムを国立研究開発法人日本原子力研究開発機構・原子力科学研究所・第4研究棟に構築中である.光学素子納品後の2月上旬にセットアップのための準備に着手したが,年度下半期に施設の急な給排気停止が相次ぎ,計画が後ろ倒しになった(年度末時点では当該研究はおおむね順調に進んでいる).2月中にR5年度分の消耗品を購入し,3月にセットアップを開始できたが,完了は次年度予定である.さらに,研究の進捗に関する打ち合わせを行うため,東海村~仙台間の出張を3月中~下旬に計画していた(試料作製の状況及び円偏光発光装置の組み立て状況に関して)が,研究分担者自身及び同居家族の体調が悪く出張計画を見直す必要に迫られた.以上の理由により,次年度使用額が発生した.R6年度は残りの光学素子を上半期で調達し,セットアップを完了する計画に変更はない.また,仙台に出張し,当該研究に関する議論・情報交換も継続して行う.
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