研究実績の概要 |
高クロム鋳鉄中のM6Cカーバイドに、特性X線検出器およびビームロッキング機能を付加した透過型電子顕微鏡を用いて、電子線インコヒーレントチャンネリング(ICP)法を適用し、単一グレインからC, Si, Cr, Fe, Mo各元素の特性X線角度分布パターンを得た。元素ごとに特徴的な角度分布を示しており、これは、多重散乱による電子線チャンネリング効果を通して各元素の結晶学的位置情報が反映されていることを示している。収束電子回折法も併用して結晶方位制御を行った。 現在、このデータに対して、添加元素の結晶学的位置の異なるM6Cカーバイドの結晶構造モデルを複数作成し、特性X線の角度分布強度シミュレーションを行い、実験を再現できる結晶構造モデルの探索を行っている。特性X線の角度分布強度シミュレーションには、OxleyとAllenによって開発されたシミュレーションコードICSCを用いた。 また、収束電子回折法による局所構造解析に向けて、われわれが独自に開発している動力学回折(多重散乱)計算コードMBFITの機能拡張、特に、電子プローブ透過方向に異なる構造が積層する場合や、電子プローブに垂直な方向に局所構造変化が存在する場合に、動力学回折計算を行う機能の追加にも取り組んだ。これらにより、結晶界面や、添加元素の不均一分布のような、周期構造を破る不均一性を持つ試料に対しても動力学回折計算が実行可能となり、実用材料への適用範囲が広がった。
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