研究課題/領域番号 |
23K17851
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
赤沼 哲史 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (10321720)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | 祖先配列再構成 / 酵素 / 耐熱性 / 低温活性 / 分子系統樹 / イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素 / 反応速度論解析 / 活性化エネルギー |
研究実績の概要 |
酵素は優れた特性を持ち、様々なプロセスでの利用が期待される。しかし、天然酵素は宿主生物の生息環境に適応しているため、常に細胞外での利用に適しているわけではない。細胞内酵素は、不要となった際に不活性化されるよう壊れやすい性質を持つが、この耐久性の低さが利用の妨げとなる場合ある。高温に生息する好熱菌の酵素は優れた耐熱性を持つが、多くの場合、常温における酵素活性が著しく小さく、飲料や食料品加工など、高温にできないプロセスでの利用が困難である。それでも耐熱性酵素は、高温だけでなく、界面活性剤や酸・アルカリ、有機溶媒存在下でも安定であり、常温でも半減期が長い。常温で十分に機能する耐熱性酵素の開発が、酵素利用の推進に重要である。 本研究では、ロイシン生合成系のイソプロピルリンゴ酸脱水素酵素(以下IPMDH)をモデル酵素に選定し、過去に存在したがその後絶滅した生物種が持っていたタンパク質の復元法である祖先配列再構成を利用して祖先酵素を網羅的に復元し、高い耐熱性と耐久性、常温・低温での高い触媒活性を併せ持つ酵素を探索している。現在までに、IPMDH系統樹の共通祖先から大腸菌IPMDHに至る系統の祖先酵素をすべて復元し、それらの耐熱性、比活性の温度依存性、25℃および70℃における反応速度論解析をおこなった。その結果、共通祖先IPMDHから大腸菌IPMDHの間の系統にある12個の分岐点のうちの共通祖先IPMDHから数えて5番目の分岐点と6番目の分岐点の間で、触媒活性の温度特性が大きく変化することを見出した。すなわち、共通祖先IPMDHから5番目の分岐点の祖先酵素までは、天然の好熱菌酵素に見られる温度特性を示したが、6番目の分岐点以降は常温菌酵素に似た温度特性を示すことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、祖先IPMDHを網羅的に復元解析し、その中から高い耐熱性と高い低温活性を両立した酵素を探索するとともに、耐熱性と低温活性に関わるアミノ酸配列の進化的変遷を明らかにし、酵素の耐熱性と低温活性を両立した酵素を設計するための鍵となる分子メカニズムを明らかにすることを目指している。研究期間内に、IPMDH系統樹の共通祖先から好熱菌(至適生育温度75℃、80℃)への2系統、常温菌(至適生育温度30℃、37℃)への2系統、好冷菌(至適生育温度16、20℃)への2系統の計6系統上の39か所の分岐点に相当する祖先配列を推定し、その祖先配列を指定する39個の遺伝子を人工合成、発現、祖先酵素の精製、解析をおこなう。2023年度には、IPMDH系統樹の共通祖先から大腸菌IPMDHに至る系統上の12個の祖先酵素を復元し、それらの耐熱性、比活性の温度依存性、25℃および70℃における反応速度論解析をおこなうことができた。さらにその結果から共通祖先IPMDHから数えて5番目の分岐点と6番目の分岐点の間で、触媒活性の温度特性が大きく変化することを見出した。すなわち、共通祖先IPMDHから5番目の分岐点の祖先酵素までは、天然の好熱菌酵素に見られる温度特性を示すが、6番目の分岐点以降は常温菌酵素に似た温度特性を示すことを見出すことができた。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、共通祖先IPMDHから大腸菌IPMDHに至る系統上の共通祖先から数えて5番目の分岐点と6番目の分岐点の間で、触媒活性の温度特性が大きく変化すること、すなわち、共通祖先IPMDHから5番目の分岐点の祖先酵素までは、天然の好熱菌酵素に見られる温度特性を示すが、6番目の分岐点以降は常温菌酵素に似た温度特性を示すことを見出した。今後は、5番目の分岐点の祖先酵素から6番目の分岐点の祖先酵素に進化する間に生じたアミノ酸置換の中から、触媒活性の温度特性を好熱菌酵素タイプから常温菌酵素タイプに変化させるのに寄与しているアミノ酸置換の同定を目指す。 加えて、共通祖先から好熱菌(至適生育温度75℃、80℃)由来IPMDHへの2系統、常温菌である枯草菌(至適生育温度30℃)IPMDHへの系統、および好冷菌(至適生育温度16、20℃)IPMDHへの2系統の計6系統上分岐点に相当する祖先配列を推定し、その祖先配列を指定する39個の遺伝子を人工合成、発現、祖先酵素の精製、解析をおこなっていく予定である。 得られた研究成果については、日本分子生物学会のシンポジウム等で発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初に予定していたよりも順調に研究が進捗したため、消耗品の購入額が当初の見込みよりも大幅に少なくなったため、次年度使用額が生じた。 次年度は、本研究計画の遂行に必要な用品費・消耗品費として、さらに、研究成果を学会や誌上発表のための費用に使うことを計画している。
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