研究課題/領域番号 |
23K17877
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田原 弘量 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (20765276)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | ナノ構造半導体 / 強結合 / 光電変換 |
研究実績の概要 |
光検出器や太陽電池などの光電デバイスの物性原理を担っているのは、物質内で生じる光電変換過程である。本研究では、効率的な光電変換に向けた新しい光技術を生み出すことを目指して、半導体ナノ粒子と光子を結合させた量子システムを開発する。本年度は、半導体ナノ粒子の集団を結合させた薄膜を作製し、非線形光電流特性を計測した。ナノ粒子の表面を覆うリガンド分子をアルカンジチオールで置換することでナノ粒子間距離を制御した試料を作製した。リガンド分子置換を用いた方法の特徴は、分子鎖の長さを決める炭素原子数を1原子ずつ変えた試料を作製することでナノ粒子間距離を精密に制御できる点にある。ナノ粒子集団によるコヒーレントな応答を正確に捉えるために光電流量子干渉分光測定を行った。その結果、炭素原子数の減少にともなって、非線形光電流が急激に増大することを観測した。非線形光電流が増大するメカニズムを明らかにするために、入射パルス光の強度を変えた計測を行い、入射光子数に対するエキシトンの生成確率および非線形信号の発生過程を解析した。実験結果と理論計算を比較することで、隣接するナノ粒子同士で共有したマルチエキシトン状態が非線形光電流の増大を引き起こしていることを明らかにした。この増大現象は、結合していない集団のナノ粒子では生じず、ナノ粒子同士を近接させて結合するからこそ発現する物性機能である。ナノ粒子の量子協同過程によって光電信号が強められるメカニズムを解明したことは、ナノ粒子量子システムの構築において非常に重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
半導体ナノ粒子の集団構造を利用した巨大光電増幅を目指して、ナノ粒子結合量子システムの開発を進めている。ナノ粒子の表面リガンド置換によって、ナノ粒子間距離を制御したナノ粒子薄膜を作製し、光電流信号の計測を行った。ナノ粒子間距離を短くすることで、ナノ粒子同士の量子協同効果を引き起こし、非線形光電流を増大させることに成功した。さらに、立方体形のナノ粒子を用いて数マイクロメートルの3次元的な超構造体の作製に成功しており、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
集団のナノ粒子によって構成された量子光電システムの開発を進める。これまでに、ナノ粒子結合膜において非線形光電流を増幅させることに成功した。次年度は、ナノ粒子を稠密に配列したナノ粒子超構造体を作製し、集団ナノ粒子の量子協同機能を有しかつマイクロスケールまで拡張したシステムを構築する。集団のナノ粒子が超構造体として機能するためには、ナノ粒子間の距離や配列方向を制御することが重要になるため、最適な超構造体作製条件を決定する。ナノ粒子間で生じる協同過程の利用範囲を拡張することで、システム全体で巨大光電応答を引き起こし、電流増幅・光増幅を実現させる。
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