研究課題/領域番号 |
23K17885
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
宮本 克彦 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (20375158)
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研究分担者 |
大野 誠吾 東北大学, 理学研究科, 助教 (70435634)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | テラヘルツ / アップコンバージョン / 軌道角運動量 / トポロジカルチャージ保存則 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,テラヘルツ領域における軌道角運動量分解測定を目標に,非線形アップコンバージョン過程を介したテラヘルツ光検出を行うことである。近年、近赤外域の波面および位相情報をテラヘルツ領域に転写することで、周波数可変なテラヘルツ光渦の発生に研究代表者は成功している。この逆課程である非線形アップコンバージョンを介して、テラヘルツ光渦がもつ軌道角運動量を近赤外域へと逆転写できれば,超高感度テラヘルツ検出やテラヘルツ光渦多重伝送などへの応用が拓かれ,将来的にテラヘルツ光量子検出への展開が期待できる。 研究初年度である本年度は,テラヘルツガウス光を用いたアップコンバージョン過程において室温下でのテラヘルツ光検出を目的とした。高い非線形光学効果と広い位相整合許容幅を併せ持つ有機非線形光学結晶を用いることで,テラヘルツ光を近赤外光に高効率変換することが可能であった。また,入力するテラヘルツ光強度に対して,アップコンバージョン光の応答を確認し,比較用の極低温検出器に比べ高感度でテラヘルツ光検出が可能であった。さらに,観測したアップコンバージョン光の空間強度分布はガウシアンビームに近い形状を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非線形アップコンバージョン過程によるテラヘルツ光検出の実験には,有機非線形光学結晶4-N,N-dimethylamino-4’-N’-methylstilbazolium tosylate: DASTを検出用の結晶として用いた。独自に開発した周波数可変単色テラヘルツ光源(周波数4 THz,スペクトル線幅 ~ 0.1 THz)とλ1=1504 nmの近赤外光を,空間的にも時間的にも重ね合わせDAST結晶に同軸に入射することで,アップコンバージョン過程を介したテラヘルツ光検出を試みた。テラヘルツ光を遮蔽しλ1 = 1504 nm光のみを入射した場合に対して,4 THzのテラヘルツ光を入射した際,和周波に対応する 1.474 nmと差周波に対応する1.535 nmのスペクトル特性を示した。回折格子によって励起光と検出光を空間分離し,光スペクトラムアナライザーにて波長計測を行った。また,検出光の空間強度分布をInGaAsカメラを用いて観測したところガウシアンビームに近い形状を示し,周波数4 THzのテラヘルツ光を室温下にて計測することができた。また,従来の極低温検出によるテラヘルツ光検出に比べ高感度に検出できることを確認し,近赤外光への変換効率は ~ 10^(-8) 程度であった。また,予備的な実験として入力するλ1の近赤外光を光渦とした場合,検出光に波面情報が転写され,アップコンバージョンの前後において,トポロジカルチャージ保存則が成り立っていることも確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
有機非線形光学結晶DASTを用いたアップコンバージョン検出により,極低温検出器より高感度であることを実証できたことから,次年度は検出限界を含めた検出感度の定量化を図る。さらに,用いているDAST結晶の特性から広帯域なテラヘルツ光検出が可能であり,コヒーレンス長から見積もられる変換効率と比較し周波数特性についても議論する。さらに,テラヘルツ光渦がもつ波面情報を近赤外光であるアップコンバージョン光に転写させる。テラヘルツ光渦のアップコンバージョン検出を行い,その波面情報を計測することで,軌道角運動量のモード検出に取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
テラヘルツ検出器の購入を検討していたが,波長によっては安価な中赤外用の検出器での受光が可能であることが分かったため繰り越しが生じた。一方,関連領域において2024年度の国際会議において招待講演を受けたのでその旅費に充てる。
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