研究実績の概要 |
本研究では、ホストーゲスト間水素結合形成を電荷移動トリガーとするゲスト誘起可変多孔性磁石を開発し、ゲスト誘起格子内電子移動による新しい相変換機構を提案する。オルト位にOH置換基を有する安息香酸架橋ルテニウム二核(II,II)錯体(o-OH-[Ru2])のHOMOエネルギーレベルは、オルト位にOH置換基とカルボン酸酸素原子間の分子内水素結合が強く関わっていることを当研究室で見出している(Dalton Trans. 2022, 51, 85)。すなわち、o-OH-[Ru2]を電荷移動ユニットに使用した場合、この水素結合形成や水素結合への摂動は、HOMOレベルの調整に寄与すると予想され、動的なHOMOレベル制御の新たなトリガーとして有効であると考えられる。本研究では、o-OH-[Ru2]錯体とTCNQ誘導体について、置換基を換えることによりそれぞれ電子ドナー能とアクセプター能を調整し、それらの2:1組成比からなる層状集積体(D2A型と略記)を合成する。各種ゲストの吸脱着による格子内外の水素結合形成を変えることでo-OH-[Ru2]錯体のHOMOレベルを動的に調整し、格子内電荷移動を誘起して磁気相を変える。本年度は、新規D2A型集積体を合成し、その脱溶媒構造の安定性を調べることを目指した。その結果2種の化合物を合成することに成功したが、極めて興味深いことに、どちらも脱溶媒により電荷移動を起こして磁気相転移することが明らかとなった。
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