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2023 年度 実施状況報告書

非線形ラマン分光による振動ポラリトン物性の根源的理解

研究課題

研究課題/領域番号 23K17904
研究機関奈良先端科学技術大学院大学

研究代表者

香月 浩之  奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (10390642)

研究期間 (年度) 2023-06-30 – 2025-03-31
キーワード振動ポラリトン / 非線形ラマン / 強結合状態 / 超高速分光
研究実績の概要

本年度には、コヒーレントアンチストークスラマン分光(CARS)を用いて、振動強結合した試料のコヒーレントダイナミクスを計測するための装置開発を行った。現在、振動ポラリトンの超高速分光は中赤外光源を用いた直接励起でのみ行われており、コヒーレンスを計測できるCARSは相補的な情報を得られると期待される。
チタンサファイアオシレータの出力(830nm)から、OPOで700nmの光を生成し、pump, probe光とした。830nmの光の一部をStokes光として利用した。Pump光とStokes光を共軸に重ね、試料に対し入射角0度で照射し、これに対し少しだけ角度をつけてprobe光を入射し、新たに600nm周辺に生成するシグナル光を分光器とCCDカメラで計測した。キャビティ試料とnonキャビティ試料のシグナルの間に微妙な線幅の差異が見られ、両者の差を取ることで、有意の残差が認められた。しかしながら、測定中のpump, probe光の波長のゆらぎ、キャビティ長のドリフトなどシグナルに影響を与えうる要因がいくつか残っているため、現時点ではCARSによって振動ポラリトン由来のCARSシグナルが測定できているかどうかは判断し難い状況である。また、DBRミラーを使用した場合、キャビティモードの間隔が単純な等間隔にはならないため、透過スペクトルからキャビティ長を計算する転送マトリクス法に基づいた計算プログラムを開発した。高い精度でキャビティ長を見積もることに成功しており、これをもとにフィードバックループでキャビティ長を安定化させる機構を今後開発する。また、ポラリトン由来のCARSのシグナルを結合していない通常のCARSシグナルと区別するために、ラビ分裂の大きな試料、またコヒーレンスの寿命が長く、CARSシグナルの緩和が遅くなる試料を検討中である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

概要に書いたように測定光学系はほぼ完成しており、オシレータを光源としてCARSの測定系を組み、通常の液体試料からは高いS/Nでシグナルを測定することに成功している。すでにポラリトン状態におけるシグナルの計測も予備的におこなっているが、実験を進める上で長時間の測定中のキャビティ長のドリフトという問題が生じたため、現在この問題を解決するフィードバック安定化機構を開発中である。ラマン測定を行うため、FTIRによるFabry-Perotモードの情報を同時に取得することはできず、キャビティ長を直接距離センサーから読み取って、その値をもとにフィードバック制御を行う安定化機構の開発と、十分に寿命が長く、ラマン及び赤外吸収双方の活性を持つ振動モードを持った分子の選定を現在行なっている段階である。また、実験中のStokes光の波長や波形のドリフトもCARSシグナルの形状に直接的な影響を与えることから、CARS信号の測定と同時に、励起に用いる830nm,700nmのパルスのスペクトルを常にモニターするように測定プログラムの改造を行った。

今後の研究の推進方策

実際の測定では共鳴状態とキャビティ長を少しだけずらした非共鳴状態でそれぞれCARS測定を行い、両者の差を議論する必要があると予想しており、そのためには測定にかかる数時間から5、6時間程度の間、キャビティ長を設定した値に保つ必要がある。これを目標にキャビティ長の安定化機構を開発する。また、キャビティ共鳴状態でLP,UPのポラリトン準位からのCARSが得られる場合、周波数のシフトが起きるため、十分な大きさのラビ分裂のある試料であること、また、コヒーレンスの寿命が長く線幅が狭いことが、より明確にポラリトン由来のCARSシグナルを同定するために有利である。これらの条件を満たすような試料の探索を行いつつ、CARS測定を進める。また、中赤外波長で高い反射率を示し、可視近赤外領域で透過率が高くなるようなダイクロイックコーティングの開発を行う。現在使用している外注ミラーはそのような要求を満たしているものの、積層構造が複雑であるために、キャビティモードの分布が非常に複雑になってしまうという問題が生じている。この点を回避でき、pumpとStokes波長の透過率が高いキャビティミラーの開発を並行して進める予定である。

次年度使用額が生じた理由

ダイクロイックミラーのコーティングの設計を現在検討しており、1度の成膜で高い金額になるためにより慎重を期した議論を重ねており、次年度に持ち越しとなった。また、実験に参画している学生の海外学会発表費用として多額の旅費が必要になることが予想されることから、そのための金額として、40万円を繰り越した。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] Ultrafast Spectroscopy under Vibrational Strong Coupling in Diphenylphosphoryl Azide2024

    • 著者名/発表者名
      Stemo Garrek、Nishiuchi Joel、Bhakta Harsh、Mao Haochuan、Wiesehan Garret、Xiong Wei、Katsuki Hiroyuki
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry A

      巻: 128 ページ: 1817~1824

    • DOI

      10.1021/acs.jpca.3c07847

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] 非線形ラマン散乱を用いた振動ポラリトン状態の超高速ダイナミクスの計測2023

    • 著者名/発表者名
      西内 ジョエル, ステモ ガリック, 北出 聡太, 香月 浩之
    • 学会等名
      第17回分子科学討論会

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公開日: 2024-12-25  

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