研究課題/領域番号 |
23K17924
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小西 克明 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (80234798)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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キーワード | フッ素 / 内部空間 |
研究実績の概要 |
フッ素は全元素中で最大の電気陰性度を有するとともに水素に次いでサイズが小さく、周期表中でも特異な存在である。本研究では、[Mo132O372(L)30]42-の構造式をもつ中空型巨大ポリ酸({Mo132})分子を用い、多価アニオン性無機シェル内部に構築された「フッ素リッチなナノ空間」において発現するユニークな特性・ 機能を開拓する。初年度は以下について検討を行った。 1)配位子交換反応による内壁フッ素修飾法の確立:CF3COOH, CF2HCOOH, CFH2COOHなどフッ素含有量が異なるカルボン酸を、カルボキシレート交換反応によって導入するための反応条件の最適化(pH、当量比、温度など)を行い、内壁上に存在する30個のカルボキシレートをほぼ定量的に交換する手法を確立した。 2)水に不溶な有機ゲストの取込みプロトコルの確立と炭化水素ゲスト包接活性の評価:1)で得た各種内壁フッ素修飾の{Mo132}をホストとして用い、水系媒体中で水に不溶な有機ゲストの取込み実験を種々の条件でおこない適切で再現性のあるプロトコルを確立した。この中で、環状アルケンに対して特異的な取込み活性を示すことを見出した。なかでもシクロペンタジエンは、FをHに置換した類似体では全く取込み活性を示さず、パーフルオロ型が特異的に取込み活性を示す。興味深いことに、鎖状アルケンでは非フルオロ置換体とパーフルオロ置換体ではほとんど活性に違いは観察されず、取込み過程でエントロピー項が大きく関与していることが示唆された。また、これらのゲスト取込み実験は水溶液中で行ってきたが、この手法では取りこめないゲストをホストと固相粉砕混合することによって、効率的にゲスト取込みが実現できる場合があることを予備的に見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに本研究では、1)配位子交換反応による内壁フッ素修飾法の確立、2)水に不溶な有機ゲストの取込みプロトコルの確立と炭化水素ゲスト包接活性の評価、について検討を行った。1)については、単結晶X線回折, NMR, 赤外分光を用いて生成物の精密同定が可能であることを見出し、効率的な配位子交換反応の条件を確立した。さらに、2)では、水に不溶な疎水性有機ゲストと水に溶解させたホストを二相不均一系で作用させて、再現性良くホスト内部空間にゲストを取り込ませるプロトコルを確立した。本研究は今後、多様なゲストの取込みや内部空間での変換反応に展開するために必須の要素であり、概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
1)これまでに確立したプロトコルを用いて、種々のフッ素修飾中空型ポリ酸を設計する。具体的にはこれまでに用いてきたCF3COOHなどに加えてパーフルオロ型カルボキシレート、スルホネート(CF3CF2CO2-, CF3SO3-等)を導入する。 2)中空空間内部に種々取り込まれた分子同士を反応・成長させ、ポルフィリンやAuクラスターなど 機能性ナノ分子を物理的にとじこめたハイブリッド物質を「ship-in-a-bottle合成」し、内部での選択的触媒反応や光駆動型反応へと展開する 。また、ゲスト取り込みに応答したホスト側の電気化学特性の変化を利用したセンサーなどの開発を念頭とした分子設計についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度においては、フッ素リッチなナノ空間内部に機能分子をとじこめた複合体の作成のために、1)配位子交換反応による内壁フッ素修飾法の確立、2)内部空間での機能分子合成のための種々の有機物とりこみ評価を行う予定であった。1)については予定通りであったが、2)の分子取込み能の評価については、水に不溶な疎水性有機ゲストと水に溶解させたホストを二相不均一系で作用させる条件で再現性を得ることが困難であり、反応容器の形状、大きさ、撹拌のやり方等の手法を確立するために時間を要した。このため、今年度に予定していた種々の有機物取込みの評価を次年度以降に持ち越すことになり、次年度使用額が生じた。
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