研究課題/領域番号 |
23K17939
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井改 知幸 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (90402495)
|
研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
|
キーワード | らせん / 超分子 / ポリマー / 高次構造 / キラリティ |
研究実績の概要 |
ラセンと超分子の強みを掛け合わせて生み出される「規則性と柔軟性を兼ね備えた新規な構造特性」を戦略的に活用した、革新的な材料・デバイスの開発を目指し、以下に示す成果を得た。 1. 「光学活性なトリプチセンベースのキラルセグメント」と「種々のπ拡張アキラルセグメント」を含有するランダムコイル構造の前駆体ポリマーの定量的かつ化学選択的なラダー化によって、一連の一方向巻きヘリカルラダーポリマーを合成することに成功した。得られたラダーポリマーのラセンの巻き方向(右または左巻き)及び立体構造(緩やかなヘリカルコイル型またはリボン型)は、アキラルセグメントを置き換えるだけで容易に変調できることを実証した。構築されたラセン二次構造は、ラダー骨格に由来して極めて安定であり、環境に依存しないキロプティカル特性を示すことを見出した。 2. アルキン源として4-アルコキシ-2,6-ジメチルフェニルエチニル基を用いる独自のアルキン芳香環化反応を利用することで、従来法では合成できなかった、「アルキレンジオキシスペーサーで架橋した光学活性なテザー型ビナフチル骨格」を主鎖に導入した新規ヘリカルラダーポリマーの合成に初めて成功した。アルキレンジオキシテザー基に含まれる炭素原子数を1つずつ変化させながら、繰り返し単位中のビナフチル二面角を制御することで、ポリマー全体の二次構造を精密にチューニングすることができ、ヘリカルラダー構造の最適化により、高い蛍光量子収率と非対称因子を併せ持つ高性能な円偏光発光材料の開発に成功した。無欠陥ラセン構築により、円二色性シグナルは既報値の6倍以上に増加することも明らかにした。 3. アルキン芳香環化を利用することで、電子ドナー性の縮環チオフェンユニットを定量的にπ拡張することができ、含硫黄ラダー型分子およびヘリカルラダーポリマーの合成に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画にのっとり、合成、構造解析、機能化に関する実験を遂行し、その多くは未発表ながら、目的を達成することができたことから、研究はおおむね順調に進行していると判断した。独自に開発したアルキン芳香環化反応の「完璧な環化効率と化学選択性」および「広範な基質適用性」を最大限に活かすことで、多様な二次構造の構築が可能になっただけでなく、キラルユニットの絶対配置を変えることなく、ラセン形状を緩やかなヘリカルコイル型やリボン型に変えることができ、さらに、アキラルユニットの構造に依存してラセンの巻き方向を制御可能な方法論を確立できた。本研究成果は、目標とする「ラセン軸方向の高い電荷輸送特性の発現」および「外部刺激に応答したラセン軸方向のバネ運動の実現」に繋がる重要な成果と言える。得られた成果を踏まえ、前例の無い多様な二次構造を有する高分子を構成成分とする超分子ポリマーの合成にも挑戦する。さらに、計算科学との融合により、モノマーユニットの系統的な構造変化に基づいたラセン二次構造と磁気・電気遷移双極子モーメントの向きと大きさを精密にチューニングする方法論も確立できた。これは、より精緻かつ複雑な生体類似の高次構造の人工的構築に繋がる重要な成果であると言える。加えて、アルキン芳香環化を用いることで、電子ドナー性の縮環チオフェンユニットを含有する構造欠陥の無い全共役ラダーポリマーを定量的かつ選択的に合成できることも明らかした。これは、今後の両極性半導体材料への応用を見据えた分子設計に活かすことができる重要な知見と考えている。また、不斉な外部環境下、ラダーポリマーがキラルな超分子構造体を形成し、巨大な円二色性、円偏光発光性を示すという、当初想定もしていなかった極めて意義深い成果を含め、「ラセン二次構造」と「超分子」を融合した新たな科学の開拓に結びつく、多くの知見も多数得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に得られた知見・成果を踏まえ、二次構造を有する高分子と、それらを構成成分とする一連の超分子ポリマーの精密合成を引き続き行うとともに、得られる高分子、超分子の光学的および電気化学的な基礎物性の評価、さらにはデバイス応用を目指し、さらなる綿密な分子設計・条件検討を行い、目的達成に向けた検討を鋭意行うとともに、以下に示す研究を推進する。 1.【半導体特性を示すユニットを高密配列したラセン連結超分子の合成】 電子アクセプター性 (n型) のラダー型ユニットを合成する方法論を確立し、前年度に開発した電子ドナー (p型) ユニットと共有結合で連結することで、効率的な光電荷分離が期待できるp/nユニットを合成する。得られるp/nユニットを側鎖に導入したラセン高分子、超分子を合成し、半導体特性を評価する。電界効果トランジスタとしての応用も検討する。得られる結果を分子設計へフィードバックし、材料、デバイス特性のさらなる向上を図る。 2.【自己修復能を有するフレキシブルエレクトロニクスとしての機能開拓】 上記1の設計に、さらに、多点水素結合やπ-π相互作用が可能なユニットを合目的に組み込み、材料に自己修復能を付与することで、柔軟性と高耐久性を兼ね備えたデバイス開発に着手する。 3.【超分子構造の柔軟性とラセンのバネ伸縮特性を活用したソフトアクチュエータ応用】 フォトクロミズムを示すアゾベンゼンやジアリールエテンユニットを主鎖に組み込んだラダーポリマーの合成法を確立する。ラダーポリマーは、主鎖全体が端から端まで連動して動くため、分子レベルの局所構造の変化によって、マクロな構造変化を効率的に誘起できる可能性がある。この特徴を最大限に活用し、ソフトアクチュエータへの応用を検討する。 前年度に得た研究成果に更に磨きをかけ、より重厚な論文として国際誌に投稿する。
|