研究実績の概要 |
原子数個の厚みを有する原子膜(ナノシート)は、従来のバルク、薄膜とは異なる特異物性を発現し、新しい機能材料・デバイスとしての応用が期待されている。本研究では、原子膜合成が困難であった典型酸化物(TiO2, ZnO, BaTiO3など)を対象に、組成、構造、膜厚を制御した酸化物原子膜を合成し、酸化物原子膜の特異構造解明とエピタキシー技術への展開を目指した研究を推進している。本年度は、最近開発した鋳型合成法を利用し、酸化物原子膜の合成と特異構造・物性の解明を目指した研究を進めた。 単純酸化物のナノシート化に向けては、固体の界面活性剤結晶を利用したボトムアップ合成法を開発し、アモルファスシリカ、CeO2、ZrO2などの非層状酸化物のナノシート合成に成功した。他方、複合酸化物のナノシート化には、ナノシート自体をテンプレートとして利用し、厚み、組成、構造を精密に制御して合成する鋳型合成法を開発した。この手法により、工業的に重要な酸化物合成に挑戦し、Ti0.87O2ナノシートを鋳型とした水溶液プロセスにより、60℃という低温で単位格子数個の厚みを有するBaTiO3ナノシートの合成に成功した 。特性評価の結果、強誘電性は単位格子3個に相当する厚さ1.8 nmのナノシートまで維持されることを確認した。単位格子3個のBaTiO3強誘電体は、自立膜としては最小の膜厚であり、超薄膜における臨界物性の解明やデバイスの小型化に重要な指針を与えるものと期待される。 上記の合成法に加え、ワンポット反応法、剥離ナノシート技術の高度化にも取り組み、これらの合成技術を貴金属、酸化物、複合アニオン系に適用することで、従来合成が困難であった貴金属ナノシート(Au, Pt, Pd)、Ru1-xCoxO2、酸フッ化物など、広範なナノシート合成を達成した。
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