研究課題/領域番号 |
23K17989
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
寺 正行 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10643512)
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研究期間 (年度) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 細胞接着 / クリック反応 / 三次元培養 |
研究実績の概要 |
生体直交型反応は、生細胞に適用される際、水溶液中で高速に進行することが求められる。ジベンゾシクロオクタジイン(CODY)は、二価の歪みを持つアルキンであり、歪みを促進するアジド-アルキン付加環化反応により、二つのアジド化合物を生体直交的かつ自発的に連結する性質を持つ。しかし、無置換のCODYは水溶性が低く、生体への応用が限定されていた。本研究では、生細胞表面を迅速に修飾するため、側鎖にカチオン性官能基を持つ水溶性CODY誘導体を合成し、その機能を評価した。 N-アジドアセチルマンノサミンを使用して、PC-9細胞のシアル酸に代謝的にアジド基を導入した。UV処理によりヒドロキシ基を露出させたカバーガラスに、シランカップリング反応を行い、アジド修飾ガラスを製造した。細胞表面にアジド基を提示させたPC-9細胞に、培地中に50 µMのカチオン性CODYを5分間作用させた後、アジド修飾ガラスに播種すると、30分で接着が観察された。fluorescein diacetateを使用して細胞を染色し、細胞数を定量した結果、播種した細胞の大部分が接着かつ生存していることが確認された。しかし、双性およびアニオン性CODYを用いた場合には細胞接着が観察されなかった。これは、CODYのカチオン性側鎖が、負電荷を帯びた細胞表面と反応し、反応効率が向上したためである。 接着した細胞は24時間培養すると、一部が伸展し、基材との接着面積が増加していた。これは、細胞-基材間の共有結合が生物学的接着を誘導していると考えられる。また、接着した細胞のトランスクリプトーム解析を行った結果、ITGA2やITGA5などの接着関連遺伝子の発現量が増加していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞表面のクリック反応素子であるWS-CODYの開発、細胞接着モデル細胞の選定とガラス表面へのクリック反応接着に成功し、具体的に変動する遺伝子を複数同定することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
再生医療分野において、三次元の生体適合性足場材料や細胞封入型バイオマテリアルの開発が注目されている。例えば、アルギン酸などのハイドロゲルは細胞親和性が高く足場材として汎用されている。しかし、カルボン酸-カルシウムイオン相互作用を架橋点とする高分子はゲル化条件に高カルシウム濃度を要するため細胞への負荷が大きい。一方、生体直交反応による足場材の架橋は化学選択性が高く、生体材料開発において有用である。そこで次年度は、双性イオン側鎖を有するWS-CODYとアジド修飾ヒアルロン酸 (HA-N3)を足場材とした細胞凝集体の作製を計画する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究経費で購入することを計画していた一部の研究資材や機器において、学内共通機器を使用することができ、支出が想定を下回った。また、クリック試薬類の有機合成において、効率的かつ出発原料を低く抑える合成ルートを確立したため、試薬費用を下回った。今後、生化学・分子生物学実験において、高額な試薬を使う予定であり、研究計画全体での研究費では特に変更は生じない見通しである。
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